大腸癌検診のゆくえ

この10年来、大腸癌はわれわれ日本人が罹患しやすい癌の代表と認知されてきました。とくに成因については食事との関連が深く、焼肉、ハンバーグ、ハム、ソーセージなどの脂肪を摂りすぎると大腸癌が出来やすくなり、野菜,海藻、キノコ、果物を多く摂れば、出来にくくなると言い古されてきました。

無論予防が大事であることは論を待ちませんが、いかに早期に大腸癌を見つけるかは、大腸癌の症状を知らねばなりません。ところが、残念なことに、血便や腹痛、便秘や下痢といった症状はいずれも進行した大腸癌にみられるもので、早期大腸癌の症状というものはありません。

そこでまったく症状がない人たちを対象に、大腸癌検診をおこなって大腸癌を発見しようという研究がされてきました。

その結果、現時点では、検便(二日法)による便潜血検査が最も効果があるという結論に至っています。実際、この方法はきわめて簡易ではありながら、しばしばポリープ、および大腸癌の発見に役立っています。

しかし一方で、精密さに欠ける弱点を持っています。すなわち、癌なら陽性、健康なら陰性とは必ずしもならず、少数ながら癌でも陰性、癌でないのに陽性ということがおこるのです。これでは騙されたといわれても、弁解の余地がありません。おおまかな検査というふうに理解していただくしかありません。ちなみに便潜血陽性となった人のうち、本当に大腸癌がある確率は3%前後といわれています。

新しい大腸癌検診のゆくえ

ところで最近、便潜血検査に代わりうる検査として、ふたつの方法が注目を集めています。

一つ目は、血液検査によるマイクロRNA測定です。

一般に、癌細胞は大きくなるため、さかんに栄養を取り込む血管をつくっていますが、このとき血液中に分泌される物質・マイクロRNAを解析すれば、大腸癌など13種類の癌を早期に発見できる可能性がでてきています。この研究は、国立がん研究センター、新エネルギー・産業技術総合開発機構、東レなどのグループにより、かなり高い的中率が得られており、さらに研究が進めば、近い将来には現実化する期待が高まっています。

二つ目は、検便により、便に含まれる細菌の遺伝子解析をおこなう方法です。

谷内田真一教授(大阪大学)らのメタゲノム解析とメタボローム解析によれば、大腸癌の初期には、硫化水素の生成に関わる2種類の細菌(アトポビウム・パルブルムとアクチノマイセス・オドントリティカス)や分枝鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシンとバリン)と芳香属アミノ酸であるフェニルアラニンとチロシンが増加していたそうです。

彼らは癌の進行にしたがって変化する腸内細菌の遺伝子解析をおこない、大腸癌を見分ける人工知能(AI)を開発し、早期発見に役立てようとしています。つまり、従来のヒトゲノム(遺伝子)解析から目を転じ、腸に棲む細菌の遺伝子解析によって大腸癌に迫ろうとしているのです。

このふたつの検査法は、将来便潜血検査に取って代わることが十分予想されます。以上、大腸癌検診の将来像についてお話しました。

大腸精密検査

こうして、大腸癌検診で異常を指摘された場合は、次の精密検査に移ることになります。

現在、精密検査としてもっとも信頼度の高い検査法は、大腸内視鏡検査です。胃内視鏡検査と違って、あらかじめ下剤を飲んでおなかを空にしてからでないと、検査ができません。

そこで、ポリープや癌がみつかると、直ちに切除するか、後日切除するかを判断します。良性と判断すれば多くはそのまま切除しますが、癌の疑いがあれば、組織検査や深達度診断をしたうえで治療法を決定します。

ところで大腸内視鏡検査を行うのは、癌検診で異常を指摘されたときばかりではありません。

むしろ血便や腹痛、下痢、便秘など、おなかの症状で病院を訪れた場合に、しばしばおこなわれる検査法です。この検査法がもっとも重要とされる理由は、病変が見つかった場合、癌か否かを決定できる(組織検査)唯一の方法だからです。

このように大腸癌が疑われた場合には、大腸内視鏡検査が必須となりますが、ときには心臓や肺が弱っていたり、腹部手術の癒着による狭窄で、内視鏡検査のできないことがあります。この場合少し精度は落ちますが、レントゲンによる注腸造影がおこなわれています。

新しい大腸精密検査のゆくえ

ところが近年、大腸内視鏡検査に肉薄する検査法として、二つの検査法が登場してきました。

一つ目は、CTコロノグラフィー(バーチャルコロノグラフィー)と呼ばれるもので、CTを使って大腸の立体画像を作成し、癌やポリープをみつけようとするものです。事前に下剤を服用するのは変わりありませんが、空気を挿入するだけですから、痛みは感じずに済みます。近年精度が向上し、高い評価をうけていますが、病変が疑われた場合は、結局大腸内視鏡検査をしなければならないのが弱点です。残念ながら、今のところ保険診療では認められておらず、実費(3万円)となります。

二つ目は、カプセル内視鏡を服用して大腸のなかを撮影しようとするものです。精度は通常の内視鏡検査にくらべて遜色がなく、カプセルが小型化して飲みやすくなり、腹痛の心配はまったくありません。ただし現時点では、大量の下剤(3~4リットル)を飲む必要があること、ときに、飲んだカプセルがバッテリー時間内に体外に排出されない(撮影できない部分がある)などの問題点があります。CTコロノグラフィーと同様、現時点では保険診療でおこなえず、実費(11万円)となります。

ここに紹介しました検査法は、日進月歩で進化していますから、将来は保険診療が可能となり、頻用される時代が来るものと思われます。

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