分子標的治療

細胞近年、新しい抗ガン剤として注目されているものに「分子標的治療薬」があります。

ガン細胞を殺傷する目的でつくられた従来の抗がん剤は、ガン細胞以外の健康な細胞をも攻撃してしまう欠点をもっています。

このため、白血球や血小板が減ったり、嘔吐や脱毛などの副作用に悩まされることが少なくありません。

そこで健康な細胞は攻撃せずにガン細胞だけを攻撃する薬をつくろうとして出来上がったのが、「分子標的治療薬」です。

すなわち分子標的治療薬は、がんの原因となっている遺伝子の働きを妨害したり、ガン細胞が持っている特殊なタンパク質の働きを止めて、ガンが増殖できなくしようとする薬です。

分子標的治療薬には、次の3種類が開発されています。

一つ目は、遺伝子工学を利用して人工的につくられた抗体で、モノクローナル抗体(抗体製剤)と呼びます。

この抗体がガン細胞だけにある分子(抗原)を見つけて、攻撃するというものです。

二つ目は、がん遺伝子が出す異常な信号を発見してその伝達を妨害し、ガンが発育するのを阻止しようとする薬剤です。
三つめは、ガンが増殖するために必要な栄養ルートを遮断して、兵糧攻めにしてしまおうという薬剤です。

いずれもターゲットが、ガンにだけ関わっている遺伝子や遺伝子の命令で作られる蛋白質ですから、正常の細胞を傷つけず、副作用がほとんどないものと期待されました。

しかし今の段階では、吐き気、脱毛、貧血などの副作用はないものの、肺炎に罹りやすいなどまだまだ安全とはいえないようです。

今最も注目されている「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)は、肺ガン、前立腺ガン、胃ガン、乳ガン、大腸ガン、膵ガンなどへの効果が期待されています。

実際、ガンが縮小したり、骨への転移が消失したなどの報告もみられますが、現在有効率は20パーセント程度とみられています。

しかも重篤な間質性肺炎をひきおこすケースがあり、より安全な薬剤の開発が期待されています。

またイレッサと並んで注目されているハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)は、イレッサと異なり分子量が大きいため、ガン細胞の内部には入れず、外側にいて、ガン細胞に増殖情報が伝わるのを阻止しています。

特にHER2(ハーツー)という蛋白に対して人工的につくられたモノクローナル抗体で、HER2蛋白の多く出ている乳ガンに有効です。

しかしこれも副作用として、時に心臓に異常をきたすことがあります。

また、グリベック(一般名:メシル酸イマチニブ)は慢性骨髄性白血病に有効な分子標的治療薬です。

白血病だけに現れる「Bcr/Abl」という遺伝子産物が標的とされていましたが、最近「c-kit」という遺伝子産物にも作用することが明らかになり、c-kitが関与する胃の腫瘍にも使われるようになっています。

分子標的治療はまだまだ発展途上の段階ですが、将来大いに期待される領域といえます。