新しいガン免疫治療剤 “免疫チェックポイント阻害薬”

細胞

役割の不明な蛋白質「PD-1」

免疫細胞は自分以外のものを拒絶し、攻撃してからだから追い出そうとします。当然ガン細胞に対してもよそ者と認識し、これを攻撃します。こうして、私たちのからだはこの免疫システムによって守られているのです。

日本を代表する免疫学者・本庶佑氏(京大客員教授)は20年前、免疫細胞のなかにPD-1という役割の不明な蛋白質を見つけました。

それがどのような働きをするか調べるために、遺伝子操作でPD-1がないマウスを作ったところ、心臓に炎症が起きました。

原因を究明すると、PD-1がないマウスでは免疫細胞が暴走し、自分自身を攻撃していたことが判明しました。このことから、PD-1は免疫細胞の攻撃をやめさせる“ブレーキ役”であることが分かりました。

PD-1がブレーキ役ならば、これをうまく調節すれば、抗ガン剤として使えるかもしれないと、心を躍らせたそうです。

しかしどの製薬会社も免疫療法の研究開発には、それまでインパクトのある成績を上げられてなかったため、このアイデアは沙汰やみとなってしまいました。

キラーT細胞の弁慶の泣き所

ところが、この研究に注目したアメリカの研究者とベンチャー企業が協力してPD-1を抑える薬を開発し、高い効果を証明しました。こうして、“免疫チェックポイント阻害剤”が誕生したのです。その仕組みはこうです。

今ここにガン細胞と免疫細胞であるキラーT細胞が向かい合っているとします。

ガン細胞にとってキラーT細胞は脅威的な存在ですが、一方でキラーT細胞にも弁慶の泣き所というべき「へそ」があって、ここを押されると、途端におとなしくなってしまうのです。

すなわち、キラーT細胞のへそには先述したPD-1という蛋白質があり、誤って自分自身を攻撃してしまわないよう、適時ブレーキをかけているのです。

一方、ガン細胞は表面にPD-L1という蛋白質を出現させて手を伸ばし、キラーT細胞のPD-1にくっ付き、へそを押して強力にブレーキをかけ、キラーT細胞から攻撃されないよう身を守っていることがわかってきました。

新しい治療法の登場

そこでPD-1にくっついてPD-1とPD-L1の結合を阻止する薬剤“免疫チェックポイント阻害剤”が開発されてきました。

これによってキラーT細胞は活性化され、ガン細胞を激しく攻撃することができるようになりました。

その結果、今までの抗ガン剤では効かなかった患者さんでも、メラノーマ、肺ガン、腎臓ガン、ホジキンリンパ腫では20~40%の方に効果が認められるようになりました。

また、免疫チェックポイント阻害剤の効きやすいガンというものは、遺伝子変異の多いガンということも分かってきました。

その一方で、今度はキラーT細胞が自分自身を襲う“免疫の暴走”(免疫の過剰反応)が問題になってきました。すなわち、約10%の方に間質性肺炎や甲状腺機能障害など、死亡例を含む重篤な副作用がみられているのです。

これまでのガンに対する免疫療法は、アクセルを踏む(免疫細胞を活性化する)ことばかりを考えてきましたが、ここにきてブレーキをかけなくする新しい治療法が登場したことになります。

今後は、ブレーキを外しながらアクセルを踏む薬剤の研究が進んでいくものと考えらます。