起死回生の治療法となるか“糞便微生物移植”(FMT)

微生物

一人ひとり景色の違う腸内フローラ

私たちの便は1000種類で100兆個以上の細菌が、それぞれ同じ仲間の細菌たちと群れをなして、腸の表面にびっしり敷き詰められています。

その様子は一見、お花畑のように群生しているところから「腸内フローラ」(腸内細菌叢)と呼ばれています。

腸内フローラの景色は一人ひとり異なっており、善玉菌に彩られた美しい風景もあれば、悪玉菌による荒涼とした風景もあるようです。

善玉菌は炭水化物を分解して乳酸や酪酸、酢酸などを発生し、腸のなかを酸性にして雑菌が繁殖しないように環境を整え、食物繊維を分解して悪玉菌による有害物質を排除し、免疫の能力を高めます。

逆に悪玉菌は肉類を分解してアンモニア、アミン、メタン、インドール、スカトール、硫化水素、二次胆汁酸などを発生し、悪臭のガスや発ガン物質を作り出します。

実際に腸のなかでは、善玉菌が増えると悪玉菌が減り、善玉菌が減ると悪玉菌増えるという関係があり、両者は微妙な均衡を保ちながら棲息しています。

腸の中が炎症などで傷つくと、悪玉菌がはびこり、腸内はただれた火事場のような状況になります。

美しい腸内フローラに移し替えれば…

そこで、いくら炎症を抑える薬を飲んでもよくならなければ、一層のこと、健康なひとの美しい腸内フローラをそっくりそのまま移し替えれば、傷が治ってしまうのではという大胆な発想が生まれてきました。

現在、欧米で頻発しているクロストリジウム・ディフィシル感染症は、抗生物質を使いすぎて腸内細菌が減ってしまった病人に発生し、治療薬がないため致死率が高いことで恐れられています。

2013年、アムステルダム大学のニードロップ医師は、クロストリジウム・ディフィシル感染症の患者の腸内に健康人の腸内フローラを注入した結果、驚異的な回復を遂げたことを発表し、話題になりました。

そこで、今度は潰瘍性大腸炎(患者数15万人)、クローン病(患者数5万人)など長期に炎症をおこしている腸の病気にもこの方法を適用し、腸のなかを丸ごと健康な腸内フローラで入れ替えてしまおうという試みが始まっています。

どうやって腸内フローラを移植する?

ところで、私たちの腸のなかには1,000種類もの腸内細菌がそれぞれ集団をつくって棲息しており、よそから菌が入ってくるとただちにこれを排除しようとする(コロナイゼーション・レジスタンスという)性質があります。

私たちの腸のなかの細菌フローラは、それぞれ遺伝的にある程度決まっているため、できるかぎり同じ腸内細菌を持っていそうな近親者の便をもらって、注入するのが有利です。

さらに男女間では腸内フローラが大きく異なるため、まずは同性で、食習慣が似た健康な近親者から便の提供をうけ、これを生理食塩水で希釈し、濾過した液を直ちに内視鏡をつかって病人の腸のなかに注入します。あるいはこれをカプセルに包んで、口から飲む方法も検討されています。

これを糞便微生物移植(FMT: Fecal microbiota transplantation )と呼んでいます。

思わぬ発見、痩せる腸内細菌

この治療法を試行錯誤している途中、思わぬ発見がありました。健康な肥満の人の糞便を移植された腸炎の患者さんが、病気は治ったのですが短期間で急に太ってしまったのです。それはマウスの実験でも同様でした。

このことから、腸内細菌には肥満を促す菌がいるらしいということが分かってきました。そのため最近は、糞便移植のドナーに肥満者は選ばないようにしようということになっています。

また逆に腸内細菌には痩せるのを促す菌がいるらしいということも分かってきました。「クリステンセネラセエ」という腸内細菌は食物を分解して短鎖脂肪酸を排出し、それが脂肪細胞の肥大を予防し筋肉内で脂肪を燃焼させるため、太らないというのです。

事実、遺伝的にクリステンセネラセエをもつひとは、痩せていることが分かってきました。動物実験でも、無菌マウスに、この腸内細菌フローラを移植したところ、体重の減っていくことが確認されました。

また、食欲を抑制するNアセチルメタノラマイド(NAE)という物質は、脂肪の一種で腸管で作られています。そこでNAEの前駆物質である「NAPE」を、大量に合成できるように大腸菌の遺伝子を改変して口から摂取してもらうと、食欲が抑えられるという結果が出てきています。

近い将来、これらを「痩せる腸内細菌」として製品化し、ダイエットに利用しようという動きもおこっています(細菌ダイエット)。