ノックアウトマウス

マウス

ノーベル賞

このたび、2007年のノーベル生理学・医学賞が発表されました。

受賞者はマウスの胚性幹細胞(ES細胞)を作ったエバンス教授と、ノックアウトマウスを開発したカペッキ教授スミシーズ教授の3名です。

ノックアウトマウスとは一体何だろうと訝しがるむきもありそうですが、驚くことはありません。

動物実験をするために、一部の遺伝子を破壊(ノックアウト)したマウスのことをいいます。

なぜそんなものが役に立つかと思われるでしょう。

発生工学

ある遺伝子を研究する場合、その遺伝子を破壊したマウスを遺伝子操作でつくり、正常なマウスと比較検討すれば、その破壊した遺伝子の機能がわかります。

さらにこの実験動物を使って人の病気と同じ状態を再現すれば、病気の原因や発病のメカニズム、治療法を研究することができるのです。

特に遺伝的な病気の研究には画期的な進歩をもたらしています。

また新薬の開発にもきわめて有用で、たとえば生まれつき高血圧になるノックアウトマウスをつくり、新しく開発した薬の降圧効果を調べるのに利用されています。

このようにマウスの受精卵を使って、遺伝子を操作して造り替える技術は発生工学と呼ばれ、遺伝子研究の最先端分野を担っています。

この手法には大きく分けて2つの方法があります。

ひとつは外から遺伝子を加えて作成したマウスで、トランスジェニックマウスといいます。

これはまずマウスの受精卵の核に遺伝子のDNAを注入します。

その後、受精卵を子宮に戻し、誕生したマウスのなかから、注入した遺伝子が染色体に組み込まれているマウスを取り出すのです。

このDNAの注入は核のどの部分でもいいため、技術的には比較的容易です。

もうひとつが、本来働くべき遺伝子の一部を壊して動かないようにしたノックアウトマウス(特定遺伝子欠損マウス)です。

この場合は注入した遺伝子のDNAがノックアウトしようとする遺伝子の場所に入りこみ、本来のその部の働きを破壊する必要があります。

そのため、DNAの注入はピンポイントの作業を要し、きわめて困難でした。

ES細胞とノックアウトマウス

しかし、胚性幹細胞(ES細胞)を用いることによって、この手法が日の目をみることになったのです。

ES細胞は、あらゆる組織に分化する能力を持っており、培養細胞ではいっぺんに多数の細胞を扱えるので、多少効率が悪くても目的の場所にDNAが挿入された細胞を取り出すことができるのです。

このES細胞を培養して代理母マウスに移植し、からだの一部に組み換え遺伝子をもったマウスの子を産ませます。

このモザイク状に変化させられた遺伝子をもつマウスと正常のマウスを交配することにより、目的とするノックアウトマウスの家系をつくることができるようになったのです。

ノーベル賞への道のり

ところでこれらの業績はすでに20年前に発表されたものです。

いかに優れた業績でも、それが世の厳しい評価に耐えた後、やっと学会で承認され、ついにノーベル賞をうけるまでになるには実に長い道のりがあるということが分かります。

ノースカロライナ大のオリバー・スミシーズ教授は82歳の今も、研究室から駐車場に到る10分が無駄な時間であるというほど、研究に没頭する日々だそうです。

またユタ大のマリオ・カペッキ教授(70歳)のエピソードは衝撃的です。

ご自身が「創造的な人間を育てるのに必要とおもわれる環境とは全く逆の環境で育った」と言われるように、3歳のとき母親がゲシュタポに逮捕されたため、9歳まで強制収容所、孤児院、脱走、物乞い、窃盗という世界に身を置いていたそうです。

学校すら行ったことがなかった少年が、のちにノーベル賞受賞者になったという伝説上の人物になりそうです。

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