臓器移植後の画期的免疫療法

臓器

生体肝移植と拒絶反応

1960年代の初めから開始された肝臓移植は、すでに世界で10万件を超えておこなわれています。とくに欧米ではごく一般的な医療として定着しており、その大半は脳死の提供者から施行されています。

ところが我が国では、欧米にくらべ脳死の臓器提供者が極端に少ないため、1989年以来、生体肝臓移植が主に行われており、2014年末までに7600件以上、これに対し脳死肝臓移植はわずか260件となっています。

生体肝移植とは、健康なひとの肝臓の一部分を手術によって切り取り、それを患者さんの肝臓として移植するものです。健康な肝臓にはかなりの予備能力があるため、一部を切り取っても、提供者の肝臓が弱ってしまうことはないといわれています。

しかし、手術は成功しても更なる問題は、術後、患者さんを襲う絶え間ない拒絶反応との戦いなのです。
実際移植後は、拒絶反応をどう抑えるかが、主要テーマとなります。

拒絶反応を抑える二つの方法

他人の組織が自分のからだに定着してもらうには、ふたつの方法が考えられ、

一つ目は免疫抑制剤を使って、生涯それが自分のからだのなかにいることを気付かせない方法

二つ目はなんらかの方法を使って、他人の臓器をよそもの扱いしないように覚え込ませる方法

です。

今までは一つ目の方法である、移植した臓器が他人のものだと気づかせないため、様々な免疫抑制剤を生きている限り飲み続けるしかありませんでした。

当然ですが、免疫を抑えるため免疫力が低下し、肺炎などの重い感染症やガンにかかりやすいとか、腎不全や糖尿病をおこす危険が付きまといます。

最近になってやっと、効率の良い免疫抑制剤ができてきましたが、それでもなお20%の頻度で拒絶反応がおきています。

拒絶反応を抑え込むとっておきの方法

ところがこのたび、二つ目の方法である、移植した組織を他人のものではないと覚え込ませる、とっておきの方法が開発されたというのです。

北海道大学と順天堂大学の研究チームは、生体肝移植の臓器提供者と移植患者双方のリンパ球を特殊な抗体と混ぜ、他人の臓器を異物扱いしないリンパ球「制御性T細胞」を培養したそうです。

これを手術の約2週間後から投与し始め、免疫抑制剤の服用は6カ月後から徐々に減らし、1年後に中止したそうです。

この結果、4人は3年以上、3人が2年以上も免疫抑制剤なしで、正常の免疫能を維持できたといいます。残る3人は軽い拒絶反応が出たため、免疫抑制剤を継続せざるを得ませんでしたが、通常用いられる量よりも少なく済んだそうです。

切り札となる制御性T細胞

この制御性T細胞(略してTレグという)こそ、他人の臓器をよそもの扱いせず、自分のからだにうけいれる切り札というべき細胞です。

そもそも、免疫とは自分以外のもの(ここでは他人の肝臓の組織)を拒絶して、自分のからだから追い出そうとする仕組みです。

ところが今から20年前、大阪大学の坂口志文教授は、その免疫システムの中に攻撃を止める役割を持つ細胞がいることを発見しました。それが制御性T細胞です。

この方法が確立されれば、臓器移植後、拒絶反応に悩まされている多くのひとびとを救う画期的な治療法となります。

研究チームによれば、すでに免疫抑制剤を長期間服用している患者さんにも適用できるのではないかということです。今後の発展に期待が高まります。