新型コロナへの新たなアプローチ

1.新たな検査法へのアプローチ

    PCR検査の進化

新型コロナウイルス(以下新型コロナと略す)の封じ込めに取り組むうえで、診断の基本となるのがPCR検査です。

ところが、現行の検査法では、なかなか検査数が増えず、国民の最大関心事にまでなっているのはご承知のとおりです。

その原因が検査法だけでなく、保健所の対応、医療従事者不足、測定機器の不足、専門の臨床検査技師不足すべてにあることがだんだん分かってきました。

そこで、一刻も早く改善が望まれているPCR検査に関して、話題提供したいと思います。従来のPCR検査の煩雑さに対し、国内外の企業が知恵を絞った結果が、最近やっと出始めているようなのです。

まず、現行のPCR検査機器では、1検体の所要時間が4~6時間を要するという弱点を指摘されています。

そこで最近、タカラバイオが、検体からウイルスRNAを精製する工程を省略でき、新型コロナ感染の有無を1時間以内に判定できるPCR検査キットを完成させました。同様に栄研化学も1時間で判定できるLAMP法での検査キットを完成しました。

つぎにPCR検査を難しくしている原因のひとつに、咽頭ぬぐい液から検体を採取する際、医療従事者の感染をいかに防ぐかという問題がありました。

このため、検査に当たって医療従事者は、マスクや眼鏡、キャップ、手袋、ガウンなど防護服を身に付けなければならず、簡単には作業できないのです。

ところが,最近、唾液を使ったPCR検査がアメリカなどで実施されるようになり、医療従事者の感染リスクを減らすのに福音となりそうです。

要領は、専用の容器の中にツバを吐いてもらうだけでじつに簡単です、舌にはウイルスを細胞内に取り込むACE受容体が多く存在するため、ぬぐい液より唾液のほうがウイルス量が多いとする研究結果を米・エール大学が発表したのです。

これなら、病院のそとで専用の容器にツバを吐きだしてもらえば、あとは容器を受け取るだけで、医療従事者および院内感染のリスクは避けられます。

この状況をみて、先日、日本医師会も厚労省へこの検査法に変更するよう進言しました。

これが採用されれば、一挙に検査件数が増える可能性があります。

ついで、PCRが増えない理由のひとつに、専門技術員の不足があります。本法は専門技術を要するため、臨床検査技師のなかでもPCRを扱える技術員はさほど多くないというのです。

これに対し、PCR検査を自動化する試みが現実化しようとしています。

富士フイルムでは、検体を装置にセットするだけで全自動で結果が出るという、検査試薬の開発に成功したと発表しました。所要時間も従来の4~6時間から約75分に短縮できるそうです。

また、千葉県松戸市PSS社が、OEM委託したエリテック社(仏)の全自動PCR検査システムは、現在フランス国内で実働しており、成績も良好なことから、我が国でも使用許可を申請中ということです。我が国の技術が外国で利用されているのに、自分の国で使えないなどということがあってはならないと思われます。

    抗原検査キットの登場

以上のようにPCR検査を拡充するには、時間と手間がかかりすぎるという煩雑さがネックになっています。

これに対し、PCR検査の弱点を補うものとして、精度はやや劣るものの、「抗原検査キット」(富士レビオ)が登場してきました。

なんといっても、僅か15分という短時間で判定できる利便性が魅力です。しかも週20万件もの検査が可能というのです。

たとえば、医療機関が救急搬送された患者を受け容れてもよいか(新型コロナに感染していると院内感染発生の危険がある)、ただちに決定しなければならない場合には、極めて有用な手段となります。

また日常診療のなかでも、多くの医療機関においてコロナ感染症かどうか迷うケースが頻発しており、簡便に施行できる抗原検査の需要は少なくありません

ただし、PCRにくらべ精度は劣るため、コロナのウイルス量が少ない感染初期には陰性になるのはやむをえないのです。逆にウイルス量が多く感染を拡大させる危険がある時期では、ほぼ陽性になるといわれています。

したがって、たとえ陰性でも疑わしい症状があれば、同時にPCR検査を追加する必要があると言えます。

2.新たな治療薬へのアプローチ

新型コロナのワクチンが出来上がるまでの繋ぎとして、効果の見込めそうな薬剤はすでにリストアップされていますが、最近さらに検討した結果、期待できそうな薬剤がみつかってきました。

    イベルメクチン

まず最初は抗寄生虫薬・イベルメクチンです。

これはノーベル医学賞受賞者・大村智教授の発見した、細菌が生成する物質を基に作られています。すでにアフリカでは、リンパ系フィラリア症や寄生虫によって失明するオンコセルカ症に使われ成果をあげている薬剤です。

米国のチームは最近、新型コロナの治療を受けた1400人のデータを収集・検討しました。すなわち、アジアと欧州、北米にある169医療機関からイベルメクチンを使った704例と、使わなかった704例を対象に、統計分析をおこないました。

その結果、イベルメクチンを投与していない患者の死亡率は約8%だったのに対し、投与した患者は約1%と低値を示しました。人工呼吸器が必要な重症者の死亡率をみると、投与していない患者で約21%だったのに対し投与した患者では約7%と、明らかに効果がみられました。

さらに豪州のチームは、新型コロナウイルスを減少させる効果を細胞実験で確認したところ、1回の投与で、1~2日以内に、ウイルスの増殖を抑制できたといいます。

これをうけ、政府も実用化に向け、積極的に後押しする方針を示しています。

    アクテムラ

つぎは、前回少し紹介しました、関節リウマチ薬「アクテムラ」です。

新型コロナでは、20%のかたに症状が重くなり、人工呼吸器などを必要とする重度の肺炎を起こすことがあるといわれています。

じつは、この肺炎の重症化は体内の免疫システムの暴走によって起こると考えられているのです。

新型コロナに感染し体内でウイルスの増殖が始まると、からだは、ウイルスを攻撃する抗体を作り出そうとします。この抗体を生み出すのに必要なのが「インターロイキン6」という物質です。

ところが、このインターロイキン6は、ときに新型コロナに過剰反応して暴走することがあり、誤って自分の肺の細胞までも攻撃してしまうのです。

最近、これが肺炎を悪化させる原因になっていると判明したため、インターロイキン6の暴走を止めれば、重症の肺炎も治るのではと考えられました。

アクテムラはまさにその暴走を止める薬剤なのです。

同じメカニズムで発生するといわれている慢性関節リウマチの治療薬が、新型コロナに用いられるのは、この理由によります。

つまり、アクテムラにはウイルスの増殖を抑える働きはありませんが、重度の肺炎を改善するという多大な期待が寄せられているのです。

現在、スイス・ロシュ社がアクテムラの国際的な治験を開始していますが,中国、フランスばかりでなく、大阪はびきの医療センターでも重症の肺炎に有効であったとの報告が出ています。

    VHH抗体

最近、花王と北里大学はバイオベンチャー・EMEと連携し、100億種類以上の抗体候補の中から新型コロナの増殖を抑える抗体を見つけました。

開発したのは、一般的な抗体の10分の1という小さな「VHH抗体」と呼ばれる抗体です。

VHH抗体は新型コロナによく結合し、ウイルスが細胞内に入るのをブロックします。これにより、ウイルスが周辺の細胞に広がらず、治療効果が大いに期待されるのです。

また、VHH抗体はウイルスの変異にもよく対応し、大量生産も容易なため、治療薬としてばかりでなく、ウイルスの有無を調べる検査薬にも活用できると期待され、一刻も早い製品化が待たれます。

    ネルフィナビル、セファランチン

東京理科大学と国立感染症研究所のグループは、ウイルスの増殖によっておこる細胞傷害を抑える薬剤300種のなかで、抗HIV治療薬のネルフィナビル、白血球減少症等に用いられるセファランチンが最も効果が高いことを発見しました。

新型コロナが体内の細胞に侵入して増殖するにあたり、セファランチンはウイルスが細胞内に入り込むのを妨害し、ネルフィナビルはウイルスが細胞内に入り込んだ後の増殖に関する遺伝子の複製を妨害するといわれています

ネルフィナビルとセファランチンを併用投与すると、わずか一日で新型コロナに感染した細胞からウイルスを検出限界以下に排除することができたそうです。

また通常の投与量で併用した場合も、累積ウイルス量が約93%減少し、ウイルス排除までの期間も約5.5日短縮したといいます。

今後、期待される治療薬の一つと注目されています。

    血清療法への取り組み

その他、特別な治療法として位置づけられている血清療法についてお話します。

これは、新型コロナの感染から回復した患者さんに血液を分けてもらい、その人の体内でつくられたウイルスに対する中和抗体を濃縮して、他の患者さんに投与する治療法です。

それゆえ、エイズウイルスや肝炎ウイルスなどの感染リスクを避けるためには、ウイルスの不活化・除去処理を行わなければなりませんし、リスク回避のためには納品までに半年から1年かける必要があるのです。

現在、武田薬品は新型コロナの治療薬として、血漿分画製剤(TAK-888)の開発に取り組んでいますが、近年、血漿分画製剤の世界大手であるオーストラリア CSL Behring社、英BPL社、ドイツBiotest社、フランスLFB社、スイスOctapharma社の5社と提携し、開発を加速させています。これが出来上がれば、画期的な治療効果が見込まれているのです。

  ワクチンへの期待

最後に、究極の治療薬といえるワクチンについてお話します。

今や世界中の製薬メーカー、研究所がワクチンの開発に挑んでいます。

WHOの情報によれば、主だったところでは、米モデルナ社、イノビオ社、ノババックス社、ジョンソンエンドジョンソン社、ファイザー社、英グラクソ・スミスクライン社、オックスフォード大学、独ビオンテック社、仏サノフィ社、中国カンシノ・バイオロジクス社、北京生物製品研究所、シノバック・バイオテック社がワクチン開発にしのぎを削っています。

現在は多くの企業が、第1相臨床試験といって、健康な成人を対象に安全性を確かめる試験を行っていますが、米モデルナ社と国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が共同開発中のワクチン「mRNA-1237」がやや先行しているようです。

これに我が国のアンジェス・大阪大学、田辺三菱製薬、塩野義製薬3社も加わって、ワクチン開発に取り組んでいる状況です。

とくに、大阪大学の森下竜一教授は、新型コロナの予防用 DNA ワクチンの作成に成功していますし、田辺三菱製薬はSARS-CoV-2の植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功し、これを使ったワクチンの臨床試験を計画中です。

また、塩野義製薬は、国立感染症研究所と協力して「組み換えタンパク」を活用したワクチンの開発を進めており、年内には人での臨床試験を始めるそうです。組み換えタンパクとは、遺伝子情報を組み換えてウイルスに対する免疫を獲得させる技術で、開発から量産までの期間が短いのが特徴です。

1年後には、各施設から接種可能なワクチンが登場するのではと、期待が高まっています。

 

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