NYUUGAN

乳ガンにならないために

遺伝性乳ガン

waldryano / Pixabay

家族性乳ガン

親、子、姉妹の中に乳ガンのひとが複数いる場合、乳ガンになりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。このとき、家系に乳ガンのひとがいない場合の2倍以上、乳ガンになりやすいことが分かっており、これを家族性乳ガンと呼んでいます。

このなかで、遺伝的な要因が原因だとはっきりしているものを遺伝性乳ガンといいます。

乳ガンは遺伝すると恐れている方が少なくありませんが、実際に遺伝する乳ガンは、乳ガン全体の5~10%にすぎません。遺伝性乳ガンは主に、BRCA1,2と呼ばれる遺伝子の異変(変異という)により発生し、しばしば卵巣ガンを合併します。

遺伝子の異変

誰でも持っているBRCA1とBRCA2遺伝子ですが、じつは日頃、紫外線などで傷ついた遺伝子を修理してくれている有難い遺伝子です。ところが、たまたまこの遺伝子のどちらかに変異がおこると、乳ガンや卵巣ガンできやすくなるのです。

つまり、BRCA1の異常があると72%のひとに乳ガンが、44%のひとに卵巣ガンが発生するというのです。また、BRCA2の異常があると69%のひとに乳ガンが、17%のひとに卵巣ガンが発生するといいます。さらに反対側の乳房にも癌が発生しやすく、その確率は、BRCA1変異の女性で約40%、BRCA2では約26%と推定されています。

一生のあいだに、一般女性が乳がんを発病するリスクは12%、卵巣癌を発病するリスクは1.3%であることを考えると、6~40倍も高率であることがわかります。数年前、アメリカの著名な女優が予防目的で乳房を切除したのは、以上の理由からです。

BRCA1とBRCA2の遺伝子の異変は、男女に関係なく親から子に50%の確率で伝わりますから、同じ家系のなかに遺伝するひとと遺伝しないひとが半数ずついることになります。

このように、遺伝性乳ガンの大半は、BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異で発病しますが、そのほかにも、PALB2やTP53、CDH1、CHEK2遺伝子の異常も乳ガンを引き起こすのではといわれています。

なかでも、PALB2遺伝子変異がBRCA1、2変異と同じぐらい乳ガンのリスクを高めることが報告されました。PALB2遺伝子の変異がある女性の33%が、70歳までに乳ガンを発症すると推定されています。

遺伝子検査の対象

現在、遺伝子検査の対象となるのは、本人または家族にBRCA1、2変異の存在が疑われる場合で、ガンセンター、大学病院などの研究機関で受けることができますが、約20万円の負担となります。

なお小児がBRCA1、2変異によるガンになる可能性は極めて低いため、18歳未満での遺伝子検査はおこなっていません。

具体的には、(1)50歳までに乳ガンと診断されたひと。(2)両側の乳房にガンができたひと。(3)自分あるいは家族に乳ガンと卵巣がん両方を発症したひと。(3)家族がBRCA1またはBRCA2による乳ガン,卵巣ガン、卵管ガン、腹膜ガンを2つ以上発病したひと。(4)乳ガンを発症した男性などが対象となります。

いつガンが発症するのか

ところで、BRCA1とBRCA2の異常が判明した場合、乳ガンや卵巣ガンを発症するリスクが高くなることは間違いありませんが、実際には発病しない場合もあるわけで、本当にガンが発症するのか、あるいは、いつ発症するかは不分明なのです。

そのため、25歳からは年1回、マンモグラフィー、超音波検査や、MRIをうけることをお勧めします(ただし、MRIはマンモグラフィ-より偽陽性がより多い)。

一方で、遺伝性乳ガンと診断された場合、予防的に乳房や卵巣を切除してしまうという選択肢もありますが、決して強制されるべきものではありません。

遺伝性乳ガンの治療薬

最近、これら遺伝性乳ガンの治療薬として、「PARP阻害剤」(オラパリブ)というDNA損傷の修復を阻害する薬剤が認可されました。BRCA1、2変異のあるガン細胞の増殖を抑えることが分かったからです。

ただし現在のところ、適応は、BRCA1、2変異があり、HER2陰性(ガン細胞の増殖に関わるHER2タンパクが僅か)で、化学療法後、再発あるいは手術不能例に限定されています。