乳ガンの半数以上(60~70%)は、乳房にある「女性ホルモン受容体」に、卵巣でつくられた女性ホルモンがくっついて乳ガンが発生します。
女性ホルモンとは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。エストロゲンは10歳頃、卵巣から分泌されて乳腺の発育を、プロゲステロンは思春期以後に分泌され、乳汁を産生する腺房を形成します。
乳ガンのうち、残りの5~30%では、ガン細胞が増殖するときに働くHER2遺伝子(癌遺伝子のひとつ)が活性化して、乳ガンの増殖が始まります。
さらにHER2遺伝子の異常と女性ホルモンの異常が重複して乳ガンになるケースは、約半数におよぶといわれます。
トリプルネガティブ乳ガン
逆に、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)、およびHER2遺伝子がないにもかかわらず乳ガンになる場合を、3つの因子がないというところから「トリプルネガティブ」と呼ばれるようになり、乳ガン全体の約10〜15%を占めています。
乳ガン治療に関しては、女性ホルモン受容体に原因があればエストロゲンの摂取中止を、HER2遺伝子に原因があれば分子標的治療を選択しますが、そうでない場合は治療法に決め手がなく、従来の抗ガン剤を用いるほかありませんでした。
そこで近年、このトリプルネガティブを対象に集中的な研究がされてきました。その結果、トリプルネガティブ乳ガンには少なくとも7種類のサブタイプがあると判明し、そのタイプ毎に治療薬剤の開発が進行中です。
トリプルネガティブ乳ガンのサブタイプについて
現在、「BL1,BL2タイプ」と「IMタイプ」のサブタイプには、十分効果の見込める薬剤ができています。
1. BL1,BL2タイプ
BRCA遺伝子とは傷んだ遺伝子を修復する遺伝子で、これが生まれつき壊れているため、乳ガンが発生するものです。
BRCA1異常による乳ガンの76%がトリプルネガティブ、BRCA2異常では19%がトリプルネガティブであり、BRCA遺伝子異常とトリプルネガティブ乳ガンは深い関係にあります。
しかしトリプルネガティブ乳ガン全体からみると、BL1,BL2タイプは10~30%と、決して多くはありません。
ところで近年、生まれつきBRCA遺伝子が損傷されていると、PARPという別のタンパクが代行してガン細胞を修復しようとしていることが判明しました。現在これを阻止するため、PARP阻害剤「オラパリブ」が開発され、効果を発揮しています。
(女優・アンジェリーナ=ジョリー氏の場合はこのタイプに該当し、さらに詳細な検査の結果、乳ガン発生リスクが87%と診断されたため、両乳房切除を選択された由です)
2. IMタイプ(別名髄様ガン)
トリプルネガティブ乳ガンのなかでは、予後が良いといわれています。
乳ガンを攻撃するため集まってきたキラーT細胞などのリンパ球に対し、ガン細胞はPD-L1という物質を出してリンパ球のPD-1という部分にくっ付き、リンパ球の動きを止めていることがわかってきました。
そこでPD-1にくっついてPD-1とPD-L1の結合を阻止する薬剤 免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が開発され、威力を発揮しています(ノーベル賞受賞者 本庶祐氏)。
その他のサブタイプの乳ガンに対しても、新しい治療法が研究開発中ですが、現時点では使用が許可されていません。