エイズウイルスは熱に弱く、加熱さえすればエイズ感染の危険は消失します。
非加熱血液製剤は数千人の血液を混ぜ合わせてつくっているため、エイズウイルスが混入する危険は誰もが感じていました。
主要な輸出国であるアメリカ自身、エイズウイルスが混入する危険性を洩らしていたのです。
このような状況下に加熱製剤が開発されたにもかかわらず、世界中で日本だけが2年4ヶ月もの間、黙々と非加熱製剤を使い続けたのです。
このため非加熱製剤を投与された血友病患者さんの約4割がエイズウイルスに感染するという事態に陥ったのです。
しかも患者さんにエイズの感染を告げなかったため、配偶者に感染が広がるという悲劇までおきてしまったのです。
HIV感染者
厚生労働省によると、血液製剤によるHIV感染者は06年5月末現在で1,438人、うち606人はすでにエイズを発症して死亡してしまったそうです。
以上の経過から、非加熱製剤の使用を指示した医師、漫然と輸入を続けた製薬会社、なんの対策もとらなかった厚生省が罪に問われるのは当然といえましょう。
適切な権限行使を怠った官僚の不作為に対し、最高裁で厚生官僚に有罪が確定するのは初めてのことでした。
不作為の根底には血友病患者に対する官僚の不遜な態度が垣間見えます。
当時、市場に出回った不凍液入りワインを即座に回収した厚生官僚がなぜ非加熱製剤を放置してしまったのか。
その時厚生官僚が言い放った「ワインは一般国民が飲むが、非加熱製剤の使用者は限られている」という言葉は実に象徴的です。
そもそも我が国には、血液製剤が潤沢にあるわけではないのです。
血友病のかたを始めとして血液製剤が安定的に供給されねばならないと同時に、エイズなどの感染を防御するという安全性も保障されねばなりません。
しかし血液製剤を至急入手する必要に迫られると、安定供給を優先して安全性は後回しになりがちです。
薬害エイズ事件はこういう実態を背景に発生したのです。
安定供給を優先した人達も、まさかこれほどエイズの感染が広がるとは考えてもいなかったでしょうが、もはや言い訳にはなりますまい。
仕方がないなどといって済まさず、襟を正して今後の治療に役立てていかねばならないでしょう。