CAR―T(カーティー)療法とは、患者本人のT細胞(免疫細胞の一種)を体外で遺伝子操作し、ガン細胞への攻撃力を高めたのち(50日間)体内に戻す治療法です。治療はわずか1回の点滴のみです。
その新しい免疫療法剤「キムリア」が、2019年2月、厚生労働省より製造販売を了承されました。
B細胞性の急性リンパ芽球性白血病(25歳以下)と、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(再発性、難治性)が対象で、日米での臨床試験の結果、白血病では75人中61人、リンパ腫では81人中43人に効果があったそうです。年間約250人が治療対象になると見込まれています。
CAR(キメラ抗原受容体)とは
CAR(キメラ抗原受容体)とは、人工的に作られたT細胞を活性化させる受容体で、CARを導入されたT細胞は、細胞表面に抗原を発現しているがん細胞と結合することで自らを活性化し、結合したガン細胞を攻撃し、死滅させます。
白血球の表面にはさまざまな抗原があって、これを表面マーカー(指標)といいます。この指標を、モノクローナル抗体(単一のB細胞によるガン細胞だけを攻撃する抗体のコピー)で分類したものがCD(Cluster of differentiation)と呼ばれるものです。
たとえば、CD19はB(骨髄由来)リンパ球の表面にある指標、CD3はT(胸腺由来)リンパ球の表面にある指標です。
このたび、このCD19と結合できるCAR(キメラ抗原受容体)を用いて、再発または難治性のB細胞性急性リンパ性白血病の臨床試験を行った結果、完全寛解率70~91%ときわめて高い治療成績が得られました。
しかし一方で、過剰な免疫反応により発熱や吐き気、呼吸困難などの副作用もかなりの頻度でみられています。また現在の米国では、治療費が約5300万円と高額なことも問題となっています。ただし、治療1か月で効果が認められなければ、治療費はいらないという粋な計らいがとられています。
CAR-T療法とTCR-T療法の比較
このような遺伝子を改変するT細胞療法には、CAR-T療法のほか、TCR-T( T細胞受容体発現T細胞)療法があり、体外で患者リンパ球にガン攻撃性を強化し、体内に戻すという点では同じです。
しかし、TCR-T療法はヒト白血球抗原(HLA)を主な標的としているため、患者さんが特定のHLAを持つ場合にしか治療できないという弱点があります。
一方CAR-T療法はそれがありませんが、適切な標的を同定するのが難しいという弱点があります。
このため、ガンの種類によって使い分けしていくのがよいと考えられており、現在のCAR-T療法では血液疾患以外、良い成績が見込めず、固形のガンにはあまり用いられていません。