遺伝子操作したヘルペスウイルスをガン組織に注入して、ガン細胞を死滅させる治療法です。
ヘルペスウイルスは80以上の遺伝子をもっていますが、このうちいくつかの遺伝子を改変して、正常細胞には働かず、ガン細胞だけを破壊しようとする試みがなされています。
正常細胞がウイルスに感染すると、ウイルスとともに自滅(自殺)して感染がまわりに広がるのを防ぎます。
しかしウイルスにとってみれば、細胞に自滅(自殺)されては自分も生きていけないため、細胞の自滅(自殺)を阻止する遺伝子を働かせます。
細胞の自滅(自殺)を阻止するヘルペスウイルスの遺伝子をガンマ34.5と呼びます。
この遺伝子の働きを止めると、正常細胞は感染して自滅(自殺)しますが、ガン細胞は自滅(自殺)しない性格なので、ウイルスは次々にまわりのガン細胞に感染し破壊を繰り返します。
DNAの複製に関する遺伝子
2つめがDNAの複製に関する遺伝子ICP6です。
ウイルスは増殖のためにDNAを複製しなければなりませんが、これに必要な蛋白質を作る遺伝子が「ICP6」です。
この遺伝子の働きを止めると、正常細胞でウイルスは増殖できませんが、ガン細胞はそれに似た蛋白質をもつため、ヘルペスウイルスは増殖を繰り返し、つぎつぎにガン細胞を破壊することができるのです。
免疫から逃れる遺伝子
3つめは免疫から逃れる遺伝子です。
ウイルスもがん細胞もどちらも免疫から逃れるしくみがあります。
ウイルスの免疫から逃れる遺伝子アルファ47の働きを止めると、感染したガン細胞の表面にウイルスの蛋白が露出するため、それが標的となってガン細胞が免疫細胞に攻撃され、変形し壊れて死ぬことが分かっています。
現在までに世界で臨床試験に使用されている遺伝子組換えヘルペスウイルスは、「ガンマ34.5」と「ICP6」のふたつを改変したもの(G207と呼ぶ)ですが、東京大学脳神経外科の藤堂具紀氏らは、G207からさらに「アルファ47 遺伝子」を改変したG47デルタを作成し、ガン細胞の殺傷効果を高めるのに成功しています。
すでに動物実験でガンの縮小が確かめられ、現在ヒトでの臨床試験に入っています。
また、名古屋大学消化器外科の中尾昭公氏らは、特に核酸合成が活発で腫瘍細胞の中で増殖する単純ヘルペスウイルスHF10を使った膵臓ガンの臨床試験をおこなっています。
正常細胞ではHF10が感染しても、アポトーシスが起きるため増殖しませんが、ガン細胞ではアポトーシスの機構が破綻しているため増殖することができるのです。