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iPS細胞による世界初のガン治療

iPS細胞「人工多能性幹細胞」とは人間の皮膚や血液の一部に、少数の因子を導入し、培養することによって、様々な臓器の細胞に生まれ変わることが出来る超能力をもった細胞です。

そこで、患者さんの体細胞からiPS細胞を作り、それを傷ついた神経、心筋、肝臓、膵臓などの細胞に分化させ、失われた機能を回復させる研究が急速に進んでいます。

現在、目の難病「加齢黄斑変性」やパーキンソン病、虚血性心疾患の治療に、試みられているのはご承知のとおりです。

ところが、このたび、iPS細胞をつかってガンの治療に役立てようとする試みがスタートしたというのです。

頭頚部ガンへの応用

日常臨床では、ガンが見つかった場合、手術や薬剤、放射線によりガンを取り除ければいいのですが、残念ながら完全には取り切れない、あるいは取り除くと社会生活が送りにくいなどというケースは少なくありません。

今回、注目しているのは、この後者の場合で、頭頚部ガンがターゲットです。

頭頚部ガンとは鼻、口、のど、あご、耳にできるガンで、ここを切除すると、喋れない、聞こえない、味がない、飲み込めないなど重大な後遺症があり、簡単に切除すればすむというものではないのです。

また、通常は手術、放射線治療、抗ガン剤を組み合わせて治療しますが、進行したガンの場合は、治療終了後、再発や転移の頻発するのが悩みの種でした。

このたび、理化学研究所や千葉大のチームはこの頭頚部ガンに着眼し、iPS細胞を用いたガン免疫療法がスタートしたというわけです。

NKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)

その主役はNKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)です。

NKT細胞とはT細胞、B細胞、NK細胞に続く第4のリンパ球と呼ばれているものです。

免疫の働きの中心にいて、日々体内で発生する異常な細胞を排除し、ガン化を未然に防ぐ働きをしています。同時に、T、B細胞などの免疫細胞を活性化し、長期間にわたり抗ガン作用の効果を維持するという重要な働きもしています。

ところが、このNKT細胞は血液のリンパ球全体の0.1%以下しか存在しないのです。

じつは千葉大学では以前からNKT細胞に注目し、頭頸部ガンの患者さんからNKT細胞を取り出したのち、これを増やして本人に戻す治療を行っていました。しかしながら、NKT細胞を大量に増やすことが出来ず、治療効果はあまり上がっていませんでした。

そこで、理化学研究所と本橋新一郎・千葉大教授(腫瘍免疫学)との研究チームは、iPS細胞をつかってNKT細胞を大量に獲得する研究に取り組んで来ました。

その結果、理化学研究所では、マウスの成熟したリンパ球で、NKT細胞からiPS細胞を作製し、そのiPS細胞からNKT細胞だけを大量に作り出すことに世界で初めて成功したのです。NKT細胞からつくったiPS細胞はNKT細胞に戻しやすいのだそうです。

この成功で一挙にNKT細胞治療が現実味を帯びてきました。

本当は患者さん自身の細胞からiPS細胞をつくれば、拒絶反応がおこらないのですが、作成に時間がかかり、高コストで品質が一定しないという欠点があるのです。

これに対し、健康な他人の細胞を用いると、iPS細胞を大量につくりやすく、しかも作り置きが出来、低コストで品質も安定するというのです。あとは拒絶反応に対する対策さえできれば、実行可能というわけです。

NKT細胞治療の実施

以上の成果を得て、本橋教授らは、手術や抗がん剤などで十分な治療効果が得られなかった頭頸部ガンの患者さん約10名を対象とし、ガンに栄養を送る動脈に5千万個のNKT細胞を3回に分けて注入するという治験を開始しました。

今後2年間、臨床効果と移植した細胞に問題がおこらないか経過を見ていくことになります。

世界で始めて、iPS細胞を用いたガン治療への挑戦として、医学界から熱い視線を注がれているのです。