ウイルスの自壊
各地の新型コロナウイルス(以下新型コロナと省略)がまるで申し合わせたように、一斉に減り始めたのはどういうことかと、国民の多くは首をかしげているところです。
ワクチンが行き渡ったからだといわれても、いまだ半数を超えたくらいで、もうひとつ納得がいきません。
ウイルスの特性として、コロナウイルスも増えるときには、一定の割合で変異をする特徴があります。
その変異株の一部は早いスピードで増殖しますが、急速に変異が入るとかえって短期間に自滅する運命をたどります。
児玉龍彦東大名誉教授によれば、今回の激減の原因はこのウイルスの自滅(自壊)が原因ではないかというのです。
そして今後、第6波、7波(ウイルスの枝葉の部分が増殖)を繰り返す間に、増殖が緩徐で症状も軽い株(ウイルスの幹の部分)が増えてきて、変異株を生み出すだろうと考えられます。さらにはそのウイルスたちが増えて震源地となるため、容易にコロナは根絶しないのではというのです。
幸い我が国で接種されているファイザー、モデルナのワクチンはRNA型で、変異型に強いのが特徴です。逆にアストラゼネカのベクターワクチンは変異型には弱いことが指摘されています。
つまり、RNA型は細胞性免疫を強く誘導するので、多少変異がおこってもワクチンは効くというのです。感染するかどうかは中和抗体の量が大きく関係しますが、重症化するかどうかは細胞性免疫の働きが鍵を握っているからだというのです。
したがってファイザー、モデルナのワクチンならば、たとえブレイクスルー感染しても、重症にはなりにくいことになります。
ブレイクスルー感染とは2度のワクチン接種後にもかかわらず、コロナに感染することをいいます。
ワクチン接種を敬遠する若者
我が国のワクチン接種はすでに65歳以上の9割が、2回の新型コロナワクチンの接種を終えており、明らかにワクチン接種による集団免疫効果があらわれているといえます。
すなわち90歳以上では、新型コロナ感染者の致死率は、1月の15%から7月には5.6%まで低下しているのです。
ところが若年層では、このところ感染者が急増しているにもかかわらず、重症化するケースは少ない特徴があります。つまり、自宅で休んでおれば自然に治ってしまうことが多いのです。
それもあって、20~30代の7割は接種に前向きですが、残りはやや後ろ向きのようです。
しかし最近、軽症ですんだにもかかわらず、その後、臭いや味が分からない、からだがだるい、物忘れがひどいなどの後遺症に悩む若者が目立っています。
食生活が無味乾燥となり、倦怠感で終日床に臥す日が続き、物忘れがひどくて仕事が出来ず、学校や仕事を辞める羽目になったという悲劇をしばしば耳にします。
1~2か月ならともかく、治癒して1年以上たっても、なお後遺症に悩むひとが少なくないことは、軽視できない大問題です。
自分自身の感染やこれらの後遺症を避けるために、また家族、友人に感染させる危険を避けるためにも、ぜひともワクチンを接種してほしいと思います。
今のワクチンはデルタ株に効くか?
また最近、現行のワクチンは現在流行中のデルタ株に効かないのではという懸念がしばしば聞かれます。
確かに、従来のウイルスにくらべ、デルタ株は非常に感染力が強く、重症化しやすいといわれています。
しかし、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の発表によると、現行のファイザー製ワクチンは、デルタ株を含め感染予防効果は64-87%、重症化への効果は93-100%ときわめて有効であるとのことです。
また、イングランド公衆衛生庁によれば、ファイザーのワクチン2回接種により、デルタ株に対しては88%の発症抑制効果があった(New England Journal of Medicine誌)といい、さらにスコットランドでも、ファイザーのワクチンの2回接種により、デルタ株に対する感染予防効果は79%であった(Lancet誌)と報告されており、現行のワクチンでも十分効果があると考えてよいと思われます。
なおモデルナのワクチンもファイザーと同じmRNA型ワクチンであり、その効果に大きな差はないと報じられています。
ブースター接種はどうなる?
現行のファイザー・モデルナ製ワクチンは2回接種が1セットとなっています。
しかし2回目接種のあと、当然ですが抗体価は徐々に下がり始め、8か月くらいで3回目の接種が必要になるといいます。
この3回目以降の追加接種をブースター接種とよんでいます。
この時期に3回目接種をうけると、2回目までより中和抗体の量が大幅に増えるといわれ、ファイザー社によれば、3回目接種によりデルタ株への中和抗体は、若年者で5倍以上、高齢者で11倍以上になるとのことです。
実際、世界で最もブースター接種の進んでいるイスラエルの発表によれば、60歳以上の高齢者では、感染予防効果は接種していない人の11.3倍、また重症化予防効果は19.5倍に達したそうです。
このデータをみると、ブースター接種が有意義であることは間違いありませんが、接種しなかったからといって致命的というわけではありません。
かりに感染しても、その刺激を受けて抗体産生が再開され、ほどなく十分な量の抗体が生み出されるので、重症化することはないといわれています。
世界にはまだ1度もワクチン接種が出来ていない地域が少なくありません。ちなみにアフリカでは、90%の国々がまだ未接種だそうです。これらの事情を鑑みて、WHO(世界保健機関)はブースター接種をする前に、まだ未接種の地域にワクチンを回してほしいと訴えています。
しかしながら、現実には先進諸国を中心にブースター接種を始めているのが実情です。
日本政府も、2回接種後8か月をめどに、医療関係者、高齢者、基礎疾患のある人から順次、ブースター接種を始めようとしているようです。
PCRを凌駕する検査法の登場
ところで、現在のところ新型コロナ感染の診断には、若干精度に問題があるものの、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)検査に頼らざるを得ない状況にあります。
ところが2021年4月、理化学研究所より、現行のPCR検査を凌駕する、わずか5分で正確に結果の出る技術が開発されたと発表がありました。現行のPCR検査では結果が出るのに数時間を要するのが難点となっていたのです。
理化学研究所・渡邉力也研究員らの共同研究グループは、新型コロナウイルスのRNAを分子レベルで識別し、ほとんどミスなくウイルスを検出できるようになったと報告しました。
世界最先端のマイクロチップ技術と核酸検出技術を融合させ、わずか5分で新型コロナの検出が可能になったというのです。ランニングコストも9ドルと安価である由です。
国の認可が得られれば、空港検疫はもちろん、大都市のエピセンター、病院、介護施設、教育施設などに導入され、近い将来PCR検査に取って代わるものと思われます。
新型コロナの早期診断、早期隔離のため、一刻も早い実用化が待たれます。
第6波の襲来に備えて
世界を見渡すと、コロナウイルスの蔓延は決して終息の状況にありません。それにもかかわらず、ワクチン接種で問題が解決したかのごとく、大巾に制限を解除する国々が目立ちます。マスクをはずし、密集する人々の姿にアウトブレイクの不安を覚えずにはおれません。
我が国のように、自主的にマスクを着用し、密を避け、換気に留意している国民性をみるにつけ、積極的なPCR検査ともにワクチン接種が進めば、おそらく集団免疫が獲得でき、小さな波は繰り返すものの、感染爆発は次第に減っていくものと期待されます。
しかし、次の第6波の襲来に備える心構えはしておく必要があります。
政府はこの度のオリンピックに際し、検疫において五輪関係者を優遇した結果、ウイルスの国内蔓延を助長してしまいました。
ウイルス対策の第1は、海外からの侵入を阻止することにあります。繰り返しになりますが、ウイルスが空港検疫をすり抜け国内に入らないようにすることを最優先にすべきと考えます。
それとともに、感染を狭い範囲に閉じ込めるために集中的なPCR検査をおこない、くすぶっている火種を断つことがきわめて重要です。
そして今後、第6波で再び大量の自宅療養者を出さないため、入院待機施設の設置を政府主導で準備しておかねばならないでしょう。