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腸の病気

腸疾患の鑑別診断

 

著書 [ポケットマニュアル 消化器・糖尿病・代謝疾患 ] より

 

腸疾患の診断にあたっては、便通異常(便秘・下痢・残便感・便柱狭小)や便の異常(血便・粘液便など)・腹部愁訴(腹痛・腹鳴・腹満感)・食欲不振・体重減少などの症状に加え、生もの・抗生物質・鎮痛剤の服用、放射線治療の有無などに注目しなければならないが、最近では大腸癌検診の普及に伴い、無症状でも便潜血反応陽性で発見される大腸癌が急増している。

 

通常、腸疾患の大半を占める大腸が検査対象となり、大腸内視鏡検査が第1選択とされることが多い。

これに対し注腸造影は敬遠されがちであるが、病変の局在・範囲および周辺臓器への影響を知る上で、軽視すべきではない。

 

小腸疾患は比較的まれであるが、大腸検査で異常がみつからない場合や、腹部単純X線検査や腹部エコーで小腸病変が疑われた場合には、小腸バルーン内視鏡検査やカプセル内視鏡検査を試みるべきである。

 

腸疾患は腫瘍性疾患と炎症性疾患に大別される

炎症性腸疾患は急性炎症と慢性炎症に分けられ、急性炎症は、細菌やウイルスなどの感染によるものが大半を占める。

そのほか薬剤アレルギーに起因する薬剤性腸炎、腸間膜の細小動脈の血流障害や腸内圧亢進に起因するとされる虚血性腸炎、放射線障害による放射線腸炎、憩室の炎症による憩室炎などが挙げられるが、いずれも腸管の循環障害が関与しているものと考えられている。

 

慢性炎症は、inflammatory bowel disease (IBD)と称する 原因不明の潰瘍性大腸炎やクローン病が代表的疾患であるが、病期によって病像が著しく異なり、腸結核とも病像の似ることがあるため、3者の鑑別診断に苦慮することが少なくない。

 

鑑別診断に際しては、発赤・びらん・潰瘍・出血・血管像消失・炎症性ポリープ・偽膜などの炎症像の存在部位、連続性・潰瘍やびらんの形態・狭窄やろう孔の有無に注意し、生検や細菌学的検査を加味するべきである。

 

腫瘍性疾患は、良性疾患として腺腫、悪性疾患として癌が大半を占める

両者はその形態(有茎・無茎・広基性・左右対称・凹凸・陥凹)・色調・周辺変化などから鑑別しうることが多いが、早期癌の場合は良悪性の混在する腺腫内癌の形をとることが多いため確定診断が容易でないこと、内視鏡治療の適応を決定する上で必須となるsm浅層(sm1)の深達度診断が容易でないことが、診断上の問題点となっている。

 

しかし近年、通常内視鏡所見に加え、超音波内視鏡検査(EUS)によるsm深達度診断ならびに腸管近傍リンパ節転移の診断能が向上し、さらに拡大内視鏡検査による狭帯域光観察(NBI)や、腺管開口部構造(ピットパターン)の観察が容易となったため、良悪性の鑑別や深達度診断に寄与するところが少なくない。