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腸の病気

大腸ポリープ・大腸がん

著書 [ポケットマニュアル 消化器・糖尿病・代謝疾患 ] より

 

大腸ポリープは、大腸に限局した隆起性病変を総称するが、臨床的に大腸腺腫とほぼ同義語として用いられている。

しかし、ポリープが形態学的な用語であるのに対し腺腫や癌は病理学的診断用語であり、両者を一括して論じることはできない。

 

また、欧米では粘膜内の高分化型腺癌をsevere dysplasia とし、粘膜下浸潤をもって癌と診断する傾向があるのに対し、わが国では粘膜内腺癌は癌であるとする立場をとっており、より論理的とおもわれるが、高異型度腺腫と高分化型腺癌の診断基準が統一されていないという問題点をかかえている。

 

また大腸がんの自然史については、ほかの癌にはみられないadenoma carcinoma sequency とde novo routeの2つの進展様式を考慮する必要がある。

adenoma carcinoma sequency については、腺腫は径5mmまではきわめてゆっくり増大し、多くは5mm以下で成長を停止する。

しかしその一部はm癌となり数年を経過したのち、sm浸潤が始まると急速に進展し約2年でss(a1)癌に進行するといわれる。

 

de novo routeは工藤らの業績に負うところが多く、Ⅱcに代表される表面陥凹型癌は急速に粘膜下へ浸潤する傾向が強いといわれる。

しかし自然史の解明にはなお症例の蓄積を待たねばならない。

 

診断・治療上のポイント

 

1.隆起型早期癌は腺腫内癌の形をとりやすく、隆起の不均一・表面の凹凸・色調の混濁・びらん形成などが診断の一助になるものの、m癌と腺腫を鑑別する確固たる指標はない。

一方、表面型腫瘍では不整陥凹(星亡状・面状陥凹)がm癌の指標となる。

さらに陥凹面や辺縁隆起の凹凸が強くなると、sm癌の可能性がでてくる。

2.大腸腺腫は径5mmを超えると、一部に癌化の始まる危険があるため、内視鏡的切除術を試みるべきである。

ただし、その適応は腺腫ならびにm・sm浅層(sm1)までの早期癌に限られる。

sm2以上は10%程度にリンパ節転移の危険があるからである。

3.進行がんの大半は2型・3型であるが、その初期病変は無茎性のⅠsかⅡa, Ⅱcなどの表面型といわれている。

このうちIsおよびⅡa型m癌はsmへ浸潤するとIsの形状をとってくるが、径10mm以下ではほとんどsm1にとどまっている。

しかし径20mm以上になると、sm2以深癌の比率が急増してくる。

4.内視鏡的治療可能なsm1までの癌は、有茎性であれば茎頭部に崩れがなく茎の太まっていないもの、広基性であれば緊満感や陥凹がなく、Ⅱc型では陥凹面の凹凸、陥凹面と辺縁の段差の弱いものである。

また腫瘍周辺の壁硬化・皺襞集中がなく、nonlifting signのないことを確認しておかなければならない。

さらにEUSにより第3層の非薄化・不整断裂像のないこと、壁外リンパ節転移のないことを確認し、拡大内視鏡検査にてV型ピットパターンの解析に努めるべきである。

Viは主にm癌の所見であり、Vnはsm浸潤癌の所見である。

とくにscratch signはsm2以深癌を示しているといわれ、内視鏡治療の適応外である。

5.内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が困難と判断した場合、直ちに開腹手術でなく、transanal endoscopic microsurgery(TEM)や腹腔鏡下手術が検討されており、低侵襲性治療が模索されている。