好きか嫌いかを決めているもの
私たちが抱く様々な感情は、煎じ詰めれば、好きか嫌いかが基になって生まれています。
大脳の中心部に大脳辺縁系という感情をつかさどる領域があります。
そのなかの扁桃体というクルミに似た小さな臓器が、ものの好き嫌いを決めているのです。
目や耳から入ってきた情報が扁桃体に到達すると、すでに蓄積された記憶に照らし合わせて好き嫌いが決められます。
したがって結果は人それぞれということになります。
ついでその結果は電気信号としてすぐそばの視床下部(欲望の脳)に送られ、喜び、悲しみ、怒り、不安などの感情が生まれるのです。
好きとドーパミンの関係
扁桃体が好きという判断をすると、視床下部で快感が生まれ、A-10神経(快楽神経)からドーパミンが放出されて、好きという感情が前頭葉にまで伝わります。
A-10神経の終着点となる前頭葉は、知性と創造力を生む脳といわれます。
前頭葉の発達で我々は芸術や思想、哲学、文明を創り出したのです。
扁桃体では肉親や恋人に対する愛情が生まれますが、前頭葉では見ず知らずの恵まれぬ人々への愛や自己犠牲の愛というものが創り出されるのです。
これこそはほかの生き物にはない、ひとだけにみられる特徴といえましょう。
前頭葉が知性の脳といわれるゆえんです。
嫌いという感情
嫌いという感情も、同様に扁桃体を通じ内側視床下部で発生しますが、好きという感情に比べ様々な感情に変化します。
たとえば、嫌いではあっても自分で状況を変えられると思うときには怒りが、変えられないと観念し目をそむけるときには恐怖が、変えられないと考え諦めるときには悲しみが生まれてきます。
このときにはドーパミンでなく、ノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されて、怒りや恐怖の感情が生まれているのです。
ところで三つ子の魂百までと言いますが、ヒトの脳は幼児期に急激に発達して3~4歳までに脳の基礎が出来上がります。
この3~4年間は、子供にとって母親の愛情ほど重要なものはありません。
乳児が最初に記憶する最愛の相手が母親であるからです。
このような親子の間にも当然ドーパミンが分泌されA-10神経を流れています。
親子の絆、オキストシン
ところがドーパミンが放出されて快感が生まれると、その刺激で親子のきずなを強くするオキシトシンというホルモンが視床下部で生み出されるのです。
動物には自分以外の生き物を避けようとする本能がありますが、オキシトシンはこの不安をうち消して、親子の結びつきを強力にする役割をしているのです。
子供になにかあると母親が飛んできて子供を抱きしめ、乳児も懸命に母親にすがりつくのはオキシトシンによるものといえましょう。
乳幼児期にオキシトシンが分泌されず、母と子の関係がうまくできなかった場合は、その後の親子関係に溝を生じる危険性が少なくないのです。
こうしてみると、私たちの感情は化学物質によって生み出されているといえなくもありません。