2009年にインドのニューデリーから帰国したスェーデン人によって、はじめて新種のβラクタマーゼ産生菌が分離されました。
菌が分離された地名をとって、New Delhi metallo-β-lactamase1、略してNDM-1産生菌と命名されました。
NDM-1はβラクタム剤を分解してしまう酵素(βラクタマーゼ)ですが、これを産生する菌には、ほとんどの抗生物質(ペニシリン、セフェム剤、カルバペネム剤などのβラクタム剤)が効かないのです。
NDM-1産生菌が持ち込まれたイギリスでは、国内に拡散しているのではないかと危惧され、大きな社会問題となりました。
また、インドやパキスタン・バングラデッシュのほか、米国、オーストラリア、カナダ、ベルギーなどでもこの菌が見つかり、世界的な問題となりつつあります。
NDM-1はメタロβラクタマーゼのなかの1つで、我が国ではまだみつかっていません。
現在までに我が国で報告されているのは別の種類のもので、その多くは緑膿菌やアシネトバクターなどの日和見細菌にみられていました。
蔓延する可能性のある常在菌
NDM-1が世間の注目を集めているのは、病院のなかで棲息しているような日和見細菌でなく、健康なひとびとの腸のなかに棲んでいる常在菌(大腸菌や肺炎桿菌)から検出されている点です。
つまりNDM-1産生菌は病院内だけでなく、市中に蔓延していくことが予測されるのです。
幸い、NDM-1産生菌は病原性が特別高いわけではないので、健康なひとなら感染しても、危険な状態になることはないようです。
しかし体力の低下したひとが感染すると治療法がないという事態に陥りますし、NDM-1遺伝子がサルモネラ菌や赤痢菌などに伝播した場合を考えると、一挙に多数の死者を出す恐れが懸念されるのです。
いずれにしても、治療薬のない危険な細菌であることは間違いなく、糞便などを介して感染が広がることが予想されるため、日ごろから手洗いやうがいの励行が大切です。