このたび政府は、専門家会議の意見に耳を傾け、緊急事態宣言を2週間延長するとしました。しかし、なぜ2週間なのか、いったい政府がその間に何か予防策を講じるかというと、3密を避ける以外に腹案はなく、ただ手をこまねいているだけといった様子です。
変異型新型コロナウイルス(以後、変異ウイルスと省略)が急速に拡大しかかっている最中、医療関係者の多くは、このウイルスのリスクに正面から対峙しようとしない政府を、苦々しく眺めて来ました。
全国的にも新規感染者は下げ止まり状態で、このところ東京では一日200~300人の発生が依然続いています。
問題はその内訳です。従来の新型コロナウイルス(以後、新型コロナ)が変異ウイルスに駆逐されている世界の状況をみれば、我が国でも変異ウイルスがどのくらい入り込んでいるのか早急に把握しなければなりません。変異ウイルスは従来のコロナウイルスに比し、はるかに強力なのが分っているからです。
もうひとつ、注目しないといけないのは、PCR検査数の減少です。東京では、2か月前には1万件を超えていましたが、最近は鎮火傾向にあるため検査数が激減しているのです。
つまり、200~300人は実際の感染者数の一部にすぎない可能性があるのです。
もし検査を1万件に増やせば、無症状感染者が多く見つかり、感染者数はさほど減っていないかもしれないのです。
感染経路不明者への取り組み
ところで感染経路をみると、確かに飲食店、病院、介護施設、保育所などはある程度抑え込まれているようですが、自宅内感染は依然と多く、さらに感染経路不明(本当は知っているが口を閉ざしているケースを含む)は50~60%と、今なお半数を超えています。
つまり、本人が感染に気付かないまま他人にうつしている事例は、依然として減ってはいないのです。無症状でも他人にはしっかり感染してしまうのが、このウイルスの怖いところなのです。
自宅療養者と無症状者を野放しにしておいて、下げ止まりを訝しむのはむしろ不遜といえましょう。
かねてより児島龍彦・東大名誉教授が指摘されているように、エピセンター(震源地)になりそうなエリアを中心に、PCRを積極的におこなって無症状感染者を掘り起こし、隔離しなければ下げ止まりは改善しないでしょう。遅ればせながら、この2週間には、特にそれを実行してほしかったと悔やまれるのです。
PCRに後ろ向きの政策をとってきたつけが、ここにも出ているように思われます。
切り札となる 換気対策
2週間後、緊急事態宣言が解除され、飲食店、ライブハウスやカラオケ、職場の休憩室など、換気の不十分な部屋で歓談すれば、再び感染が拡大するのは目に見えています。
感染が発生してすでに1年となり、ウイルスの特徴や感染ルートなど多くの事実が判明してきました。したがって政府は、どこを押さえれば感染の下げ止まりを改善できるか、明らかとなった事実に即して、早く実行にうつすべきでしょう。
すでに、換気がきわめて重要と結論づけられたのですから、飲食店、ライブハウスなどをことごとく封鎖するのでなく、徹底した換気対策が施された店を選別し、店頭に許可証を表示してもらい、そこから順次事業再開してもらうというのが、もっとも筋の通った対応ではないでしょうか。
坐して祈るだけでなく、今からでも、打つ手はあると思うのです。
ノーベル賞・大村智博士の「イベルメクチン」
最近、イギリスのリバプール大学、オーストラリアのモナッシュ大学などが、相次いで、大村智博士の発見した「イベルメクチン」を取り上げ、これが新型コロナの発育を抑えると報告しています。すでにブラジル始め数か国で、予防的投与が始まっているところから、我が国でも検討を開始しはじめたところです。
しかし、現在なお自宅療養者に死亡例がでている事実をうけ、東京都医師会の尾崎治夫会長は重症化を防ぐ目的で、国に薬剤の緊急使用を提言しています。
非常時であることを考慮し、「イベルメクチン」の緊急使用許可が出せないか早急に検討すべきでしょう。
変異ウイルスの早期発見
さて今もっとも専門家の頭を悩ませているのが、変異ウイルスの蔓延です。
政府は変異ウイルスの国内流入防止に厳しい措置をとらなかったうえ、その検出に関しても及び腰でした。検査が煩雑との理由で、とりあえず、感染者の10%ぐらいを目安に調べればよいとしてきたのです。
このため、怖い怖いと言いながら、変異ウイルスがどこにどのくらい広がっているのかを、十分調べないまま今日に至っているのです。
現在、判明している範囲のデータでは、首都圏を中心に200名余の変異ウイルス感染者が確認された由ですが、実数はその何倍にもなると推測されます。
先日神戸市が独自でおこなった検索では、この2月中に変異ウイルス感染者は、新型コロナ発生数の5%から15%(直近では50%近く)を占めるまでになっているそうです。
翻って、東京の新規感染者200~300人のなかで、変異ウイルスがどれほど占めているかは、いまだに把握されていない状況なのです。
こうして医療関係者が危機感を募らせる中、幸いなことに2021年1月、国立感染症研究所が、変異ウイルスを短時間で検出する方法を開発しました。
実は、これまで変異ウイルスの検出は、遺伝子のゲノム解析に頼っていたため、解析作業に2週間もかかっていたのです。
今回、国立感染症研究所が新たに開発した手法は、PCR検査の技術を使ってウイルスの遺伝子に、N501Yと呼ばれる変異が起こっているかどうかを調べるもので、所要時間も数時間と短く、試薬を変えるだけで従来のPCR検査機器がそのまま使えるというのです。
今までは、PCR陽性検体のわずか10%しか検査できていませんでしたが、これが実用化されれば全国の検査機関で一挙に検体処理ができるため、変異ウイルスの全容がつかめると期待されているのです。
これからは変異ウイルスとの戦いになると言われているだけに、誠に朗報というべきでしょう。
今後は、一刻も早く変異ウイルスをみつけて感染者を隔離し、まわりに広がるのを阻止してほしいものです。
気懸かりなのは、現在進行中のワクチンがこれらの変異ウイルスに確実に効くかどうか、まだはっきりしていないことです。
PCR検査とct値の応用
ところで新型コロナのPCR検査では、唾液や鼻から採取したウィルス遺伝子の断片を増幅させて、コロナウイルスがいるかどうかを判定します。
この増幅の数はCt値(サイクル数)と呼ばれ、何度も増幅しなければ(Ct値が高い)ウイルスが確認できない場合、ウイルスは少ないため、人へ感染することはないといえます。
一方、少ない増幅で(Ct値が低い)ウイルスがいるとされた場合は、沢山のウイルスがいるわけで、感染力が強いため、ただちに隔離しないといけません。
したがって、もっとも重要な、ひとへ感染するか否かの判定には、Ct値がきわめて有用だといえます。
世界的にはCt値の適正値は30~35くらいといわれ、それ以下をPCR陽性、それ以上を陰性としています。
しかし、日・米ではCt値を40、ヨーロッパ諸国では35とするところが多く、35~40の間は国によってPCRの陽性・陰性が変わる事態となっています。
我が国がCt値を40と高めに設定しているのは、コロナ発症前や感染初期で、まだウイルス量が増える前の陽性者を確実に見付けようとするのが目的です。
しかしながらCt値を高くすれば、不活性の遺伝子や微量のウイルスの断片にも反応するようになり、感染力はないのにPCRは陽性になるという悩ましい問題がおこってきます。
このため、ひとに感染する可能性がないにもかかわらず、PCR陽性のため隔離させられるケースが少なからず見られているのです。
一般にCt値30以下ではPCR陽性で、感染力も強いといわれ、36~40は我が国ではPCR陽性ですが、感染力はほとんどないといわれています。
つまり、PCR陽性と感染力の有る無しは一致しないということです。
このため我が国でも、Ct値を35に設定し直そうとする動きがあります。
この辺の事情を知った上で、PCRのCt値を利用すれば、今後診断・治療に役立つことは疑うべくもありません。