すでに医療崩壊している現実
年が明けて、医療従事者の悲鳴が届いたものか、政府はやっと重い腰をあげ、2度目の緊急事態宣言を発しました。
しかし、一方でイベントをやりながら緊急事態宣言を発しても、国民の心にどれほど響くでしょうか、大いに疑問です。
ところで、欧米では1日5万人もの新型コロナ感染者が出ているのに、なんとかやっているじゃないか。日本はたかだか数千人の患者で医療崩壊などと騒ぐのはおかしいという声が聞かれます。
これにはちょっと説明がいるでしょう。
じつは欧米ではすでに医療崩壊が頻発しています。“なんとかやっている”といわれるのは当然で、どの国でも、崩壊したからギブアップというわけにはいきません。
つまり、欧米の医療現場の一部では、新型コロナ感染者のうち治療する人と、しない(あるいはできない)人に選別する作業がすすんでいるといいます。助かりそうにないなら、なるべく病院へは運ばないでくれと救急隊員に囁いているというのです。
ぞっとする話しではありませんか。おぞましいことですが、“なんとかやっている”というのは、そういうことです。
医療崩壊はそれだけにとどまらず、ガン患者さんは手術が受けられず、脳梗塞や心筋梗塞のかたは緊急治療がうけられないため、命を落としているのが現実の姿です。
いずれ日本もそうなりますよという未来図を見せてもらっているようなものです。
半年前、コロナの専門家があれほど予防策を講じるように進言したのに、政府は聞く耳をもたなかったのですから、彼らは半ばあきれ顔で、感染爆発を当然の帰結と受け止めているようです。
医療関係者の多くも、年始の首相談話における、なお経済中心という発言を聞いて、肩を落としたというのが本音でしょう。
怖い危機意識の消失
思い出してください。数か月前、全国の感染者が千人を超えた、東京で500人にもなったと大騒ぎしましたが、今日、全国で7000人、東京で2500人になると、500人ごときで騒いだのがウソのように感じられます。
おそらく2500人が1週間続くと、もはや1万人を超えるまでは、さほど動揺しなくなるのではないでしょうか。
このように、危機感を持ち続けるというのは至難の業で、どんな危機でも長く続くと神経がマヒして、不安は募るにもかかわらず危機感は薄れ、怖いと感じなくなるものです。
じつはこれが最も恐ろしいのです。得てして、進むべき方向を誤り勝ちだからです。
太平洋戦争に突入していった当時の軍司令部にも、このような空気があったと言います。
危機感が増す一方、根拠なく何とかなるのではという不安と緊張が続いた結果、神経がマヒして怖さを感じなくなり、かえって危機感は薄れていったというのです。その結果がどうなったかは、ご承知のとおりです。
こうして危機意識は次第に薄れ、政府がふたたび緊急事態と言っても、一度ほどけた危機感は、なかなか元には戻らないものです。
日本人は律儀で自制心が強いなどとおだててみても、今度はうまくいかないのではないでしょうか。
捨て身の封じ込め作戦
一医療者として感じることは、ウイルスは人と共に移動します。東京中心に感染爆発しているのですから、東京にいる人たちはしばらく東京から出ないこと、地方から東京へ入らないことがもっとも重要です(運悪く、学生の受験期と重なってしまいましたが)。
政府は自粛、自粛といって飲食店だけに責任を負わせず、期間を限定し住民全員に行動制限をかけるべきでしょう。もはやこれ以上、新型コロナを全国へ拡散させないためには、そうする以外、手はないのではないでしょうか。
残念ながら、すでに市中に感染が広がってしまった以上、小出しの制限をかけても沈静化は望めません。
飲食業界の封鎖だけでコロナが終息する時期はとうに過ぎているからです。
こうして、都市の住民全員に行動制限をかけ、彼らを都市のなかにいったん閉じ込めたうえで、可及的にPCR検査をおこない、隠れた感染者を見つけていくしかないでしょう。とくに、教育機関、介護施設、医療機関の従事者には、繰り返し検査を受けてほしいと思います。
この期に及んでなお、政府がPCR検査の実施に後ろ向きなのは理解に苦しみます。まるで政府は国民から目をそらしているのではと疑わざるを得ません。
急がれる家庭内感染の阻止
つぎに、治療施設に関してです。
すでに都会では、病院、ホテルなど隔離施設が手一杯となり、自宅待機をお願いせざるを得ない事態になっています。
ご承知のように、半年も前から、新型コロナ感染者の多くが自宅待機となり、そのため家庭内感染を広げているというニュースが繰り返されています。今では新たな感染者の半数が家庭内感染だといわれているのに、政府、自治体の動きはあまりに緩慢です。
家庭内で感染者を隔離して過ごせるかどうか、考えてみてください。到底無理という声がほとんどです。
半年たっても,彼らを隔離するところがない。この事実だけでも医療崩壊といえるでしょう。
たとえば、オリンピック用に用意した施設を一時的に使用するというような柔軟な対応はできないものでしょうか。
官民一体となって、一刻も早くこの問題を解決しなければならないでしょう。
封じ込めに成功した国に学ぶ
現に封じ込めに成功している国をしっかり見つめてほしいのです。
そこには、いくつかのヒントがあります。
そもそも、新型コロナ患者さんを分散して多くの病院に振り分けるのは、問題があるといわれています。わずかなコロナ患者さんのために、各病院の機能が停滞してしまうほどの負担がかかるからです。
少しずつ振り分ければ、各病院の負担も軽く済むだろうという気持ちは分かりますが、逆に今までの診療ができなくなる病院が急増してしまうことにもなります。これもまた厄介な問題です。しかも多くのクリニックでは、僅かな医療スタッフでやりくりしているため、とてもコロナ感染者は受け容れ難い内部事情があるのです。
そこで、思い切って東京ドームのような処に臨時の隔離施設をつくり、1か所に数千人のコロナ患者さんを収容する。そのうえで感染症の専門家が集結し、交代で診療にあたるのがもっとも理にかなった方策ではないでしょうか。
それが医療崩壊を防ぐ最善手と考えるのです。現に中国ではこの方法で成功しているではありませんか。中国で出来たことが、日本で出来ないことはないと思うのです。
歴史を紐解くと、125年前、日清戦争が終結し、コレラが蔓延する中国から23万人もの兵士が船で帰国しました。急遽、検疫の責任者となった後藤新平は、戦勝に沸く国内事情を黙視し、コレラを国内に持ち込ませないため、わずか2カ月で国内に大規模検疫所を建設しました。
そして、帰還兵全員を検疫した結果、コレラ感染者369人を隔離し、国内への感染流入を阻止することに成功したのです。
今も語り継がれる政治家の離れ業ですが、現在の政府に後藤新平はいないのでしょうか。
また、新型コロナ対策に成功した国々に一致してみられるのは、海外からの入国を一旦完全に止めたことです。我が国がこの期に及んで、なお一部の入国許可をつづけているというのは、医療者からみて、極めて危険な選択というほかありません。
噂されているような、オリンピックを意識しての判断だとすれば、かえってこの判断ミスが命取りになりかねないでしょう。
再度、社会的検査の勧め
もはや市中に広がってしまった新型コロナ感染を、いまさら嘆いても仕方ありません。今後どうするかを考えねばならないでしょう。
つまり感染の拡大している都市では、感染者とその濃厚接触者を見つけて隔離するだけでは、どうにもならなくなっているのです。
問題解決のためには、感染に気付かず、市中を歩き回っている無症状の感染者を見つけて隔離するしかないのです。
これは個人ではできません。国や自治体が感染者の多い地区住民を対象に、可能な限り一斉にPCR検査をしてほしいのです。
それが、国内に沈滞している空気を吹き飛ばす起爆剤になるのではと期待されます。
今は誰が感染者か分からないため、お互いが疑心暗鬼になり、世の中に不信感が漂っているのです。
残念ながら今のところ、政府に期待するような動きは見られていません。
推察するに、政府はすでに感染した患者さんの対策よりも、これ以上感染が広がらぬよう、PCRでなくワクチンに命運を託そうとしているのではという印象をうけます。
それも危険な賭けではありますが・・・