COVID 19

新型コロナウイルス

(11)一開業医のつぶやき

見通しが甘かった医療対策

数か月前から高齢者の新型コロナウイルス(新型コロナと省略)感染が目立つようになり、それに比例して重症者も着実に増加してきました。

これを見て、国も自治体も慌てて重症用ベッドの確保に躍起となり、その結果、なんとか目途が立ったと安堵しているようです。

ところが医療関係者の多くは、かなり早い段階から、ベッドはあっても人がいませんよと、口を酸っぱく進言したのですが、どうも政府や自治体にはその声が届いていなかったようです。

どうみても、コロナ医療従事者への支援は後回しになっていたといわざるを得ません。

感染のリスクが高いうえに、重労働で休みも十分とれず、辞めていくひとが後を絶たない状況下において、彼等に謝意を示すだけでは、事態は好転しません。

この劣悪な環境を改善してあげなければ、医療スタッフを充足することは到底無理でしょう。

今の政府が経済重視の政権であることはご承知のとおりです。新型コロナ対策を厚生労働大臣でなく、経済再生担当大臣が管轄することからして、経済偏重は明らかです。

経営破綻から失われる命を何とか防ぎたいという強い意志は感じますが、感染拡大で失われる命には真剣に取り組む姿勢がみられません。

うがった見方があります。

政府はコロナで医療が破綻するのを待っているのではないか。世論が沸騰し、もはやこれ以上医療をほっておけないと言い出すのを待って、手厚い庇護を与えよう。そのあとなら、経済界には手を抜いても、彼等もしぶしぶ承諾するだろうというシナリオです。

まさかとは思いますが、そんな噂を立てられるほど、医療政策に対する認識が甘いと感じざるを得ません。

忍者のごとき新型コロナ

普通、風邪のウイルスは、のどが痛い、咳が出るなどの症状が出てから他人にうつしていきます。ところが新型コロナは、むしろ発症前の無症状の時期に、他人に感染するという厄介な性質をもっています。うつされる方にとっては、どうにも防ぎようのない相手なのです。

それでも、ウイルスが新宿界隈に潜んでいた間は、まだ扱いやすかったのです。

歌舞伎町の拠点を殲滅する作戦は、一応の効果を示しました。しかし今度は、そこで働いていた若者が感染しているとは知らず、地方へ散らばって、ウイルスを拡散することになりました。

それに加えて、政府は感染者が混入するのはやむを得ないとしてGoToトラベル(以後GoToと省略)を推し進め、人の移動を規制しなかったため、クラスターが全国各地に発生してしまいました。

政府はGoTo による感染者は、旅行者4000万人に対し、わずか180人にすぎないと胸を張りますが、これではGoTo で出かけるほうがコロナにかからないという奇妙な結果となり、まったく現実離れしたデータであることが分かります。

いずれにしても各地に感染が広がってしまった以上、それぞれの地域でのクラスターを潰すだけでなく、それを取り巻く無症状の人たちの中にいる感染者を見つけて隔離しなければいけません。

厄介なことに、この人たちの一部(スプレッダーと呼ばれる)は、自分が新型コロナに罹っていると気づかないまま、まわりに感染を広げているのです。

自治体がコロナ感染状況を発表する際、感染経路不明といっているのがこれにあたります。

(一部には、自分や家族に危害が及ぶのを恐れて、知らないという人も含まれています。)

新型コロナへどう立ち向かうか?

新型コロナは人にくっついて移動します。しかもウイルスは喉にいるのだから、喋らなければ外へ出ていきません。

今や「市中での飲食」が感染爆発をおこす最大の原因になっていることは、はっきりしているのです。

しかも症状がないため、感染しているのに気づかず、他人に感染してしまうケースが後を絶ちません。一見しただけでは誰が感染者か分からないというのが、このウイルスの厄介な面なのです。

ですから、感染者の半数ほどは、どこで誰にうつされたか分からないままなのです。

この見えない敵を捕らえるには、何十万人であろうと住民全員にPCR検査(PCRと省略)を実施すればいいでしょう。しかし現実には無理でしょうから、抗体検査をして感染状況を把握したうえで、ターゲットを絞ってPCRを行うか、感染源となりそうな介護施設、病院などを中心にPCRを実施する以外、手はないのです。

本当は、見当をつけてやるのでなく、新型コロナのゲノム変異を調べ、感染経路を解明するのが根本的な治療に結び付くのです。しかし我が国では、以前からその方面の研究が立ち遅れていると指摘されているのです。

また、専門家会議のメンバーに、ウイルスのゲノム研究者を加えるべきだという要望は以前からあるそうですが、実現したとは聞いていません。

ご承知のように、第1波の感染以来、国内にはPCRを早急におこなうべきという意見と、検査の不正確さがもたらす弊害を避けるためPCRはすべきでないという意見が拮抗してきました。この間、政府は一貫してPCRの実施に後ろ向きの対応をとってきました。

これに業を煮やした民間団体が、東京大学先端科学技術研究センターに協力を求め、「PCR検査拡充プロジェクト」というクラウドファンディングを立ち上げて、徐々に活動を広げています。

PCRの精度が予想外に高いと判明したのをうけ、少しでも隠れたコロナ陽性者を見つけ出し、感染爆発を未然に防ぐことが出来ればその恩恵は計り知れないという立場です。

一方、若者だけでなく高齢者の感染が目立ってきたことから、政府と東京都は、高齢者には外出の自粛を要請する一方、若者には外出やGoToを容認するニュアンスの発表をしました。その結果、若者は自由に街へ繰り出しているのが現状です。

これは医学的にみて、矛盾しているのではないかとおもわれます。

まず新型コロナに感染するのは、社会に出ていった若者であって、高齢者の多くは、ウイルスを持ち帰った若者にうつされているのです。高齢者はもともと自宅にじっとしているのですから、彼等に向かって自宅にいるよう促すのは、的外れの感があります。

感染を広げている若者にこそ、外出を自粛するよう求めるのが理にかなっているのではないでしょうか。

社会的検査の勧め

政府、自治体はコロナ重症者のためのベッドを確保するのに躍起となっていますが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

いくらベッドの補充をしても、医療従事者がいないと治療ができません。政府はやっとそれに気づいて人材集めに奔走しています。

しかし人材に目途がついたからといって、それで済むわけではありません。

つぎつぎに重症者が出てくれば、さらにベッド、人材を確保しなければなりません。

これでは、いたちごっこです。

なにより大切なのは、これ以上感染者が増えないよう歯止めをかけることに相違ありません。

そのためには、感染者とその濃厚接触者を見つけて隔離するだけでは、不十分です。

市中にいる無症状の感染者がウイルスを拡散し、クラスター(集団感染)を発生させているのですから、彼らをみつける「社会的検査」をしなければ、解決策にはならないのです。

そのため、クラスターが発生した地域の住民に抗体検査をおこない、どの地区にいったいどのくらい感染が広がっているのかを知りたいものです。2週間たてば、感染した方はほぼ全員陽性になるのが分かっているからです。

もしそれができれば、感染者の多い地区に照準をあわせ、PCR検査を一斉におこなうのが、効率のよいやり方ではないでしょうか。

それが難しいのであれば、せめて感染が広がりやすいといわれる介護施設、医療機関や教育機関などに照準をあわせ、PCRを実施していくべきでしょう。

実際、北九州市のように自治体が思いきって資金投入し、地域住民に広くPCR検査を進めた結果、感染の鎮静化に成功しているところもあります。

政府の施策をみると、ボヤが出た処に慌てて水をかけることに終始し、ボヤを出さなくする根本的な対策をとろうとしていないように思えるのです。

PCRはどこまで信用できるか?

ところで、PCR検査が不正確なため、誤診される犠牲者はどのくらいいるのでしょうか?

じつは長い間、PCR検査の感度は70%、特異度99%程度といわれてきました。

感度70%とは、100人の感染者のうち70人は見つけられますが、30人はコロナにかかっていないという結果が出ることを意味します。

また、特異度99%とは、コロナに感染していない100人のうち、誤って感染しているとされる人が1人いるということです。

これでは、PCRで陽性だといわれても、なかなか信用することができません。

しかしその後、PCRそのものが信頼できないというのではないことが分かってきました。

つまり、ウイルスのいない時期にいくら検査しても陽性になりませんし、ウイルスのいない場所をいくら探しても見つからないのは当然で、検査のやり方に問題のあることがわかったのです。

最近、北海道大学の豊嶋教授らは、過去最大(2000例)のPCR検査の診断精度を調査した結果、唾液、鼻咽頭ぬぐい液とも、感度90%、特異度99.9%で、検査日や検査手技さえ間違わなければ、きわめて正確な検査であることを証明しました。結果に納得できない場合、再度検査をすれば、感度はかなり100%に近づくといいます。

この点を考慮し、専門家に検体のとり方や場所、感染からの経過日数を相談したうえで行えば、PCR検査は、ほぼ正確な診断法といってよいと思われます。

民間PCRが政府に煙たがられるわけ

保健所の許可を得ないとPCR検査が受けられない時期は終わりを告げようとしています。

最近、新型コロナのPCR検査を、安価で受けられる民間検査が登場してきました。

今までは高額のため、一般に普及していませんでしたが、メールで申し込めば簡単に受けられるようです。仕事上や旅行に際しても、感染しているか否かはっきりさせたい人たちは、世の中にゴマンといるでしょう。

 

政府が民間PCRを嫌うのは、もし陽性だった場合、危害を恐れた当人が届け出をしないばかりか治療までも拒否し、市中感染を広めてしまう可能性があるからです。

しかし陽性と判明すれば、少なくとも行動を自粛する結果、周りに感染を広げる機会は減るものと思われます。

逆に、調べてなかったなら、周りに及ぼす危害は比較にならないほど大きいでしょう。

そしてPCRの結果が陽性ならば、たとえ無症状でもただちに医療機関へ行くべきです。偽陽性という可能性もありますが、なかには突然急変、悪化することもあり、決して甘く見てはいけません。

ともかく、政府がPCR実施に及び腰である以上、民間PCRは大いに活用してもらいたいと思います。

PCR付きGoToトラベルの勧め

今春以来、政府・自治体は自粛自粛と言いながら、国民は容易にPCRを受けられなかったのですから、コロナに感染してなかった人達からは、まったく迷惑だと苦情を言われても仕方ないでしょう。

政府の意向とは関係なく、飲食や遠出をするならPCRをうけて安心したいというのは当然でしょう。

ただ、現状のままで GoToの是非を問う議論は、いくらやっても不毛です。

GoTo に意味をもたせる方法はひとつ。GoToに出かける人がコロナ陰性であるという証明をもっておればいいわけです。

飲食店、ホテル、旅館、バス、タクシーなど、GoToで潤う職種は多岐にわたります。

それなら、みんなでPCRを受け陰性証明書を持参すれば、飲食店も時短営業をする必要はなくなるのではないでしょうか。

PCR付き GoToトラベルはどうでしょう。旅行会社はこれを機にどんどん宣伝していけばいいと思うのですが・・。

コロナの蔓延するなか、相変わらず政府は国民にGoTo を勧めていますが、崩壊中の医療現場はこれ以上感染者を受け容れられないと、悲鳴を上げています。

さらに、コロナの医療従事者は厳しいストレスのなか、睡眠すら十分とることもできず過労の極みにいます。

この期に及んで、政府は彼等にもGoToを勧める気でしょうか。それとも君たちは犠牲になってくれということでしょうか。

彼等も国民であることを忘れないようにしてもらいたいものです。