IMMUNE

免疫のはなし

モノクローナル抗体

抗体とはB細胞(免疫細胞の一種)が産生するタンパク質で、体内に侵入した異物(細菌・ガン細胞など)にある目印(抗原という)にくっついて、異物をからだの外へ追い出そうとします。

つまり、抗体には異物を分解する力はありませんが、免疫を担う細胞(好中球、マクロファージ、補体など)に働きかけ、異物を排除するのです。

モノクローナル抗体

この抗体を利用した医薬品を抗体医薬品と呼びますが、その特徴は、ガン細胞などのように標的がはっきりしている場合、標的の表面にある目印をピンポイントで攻撃できるため、効き目が強いうえ、副作用が少ないという利点があるのです。

抗体医薬品の代表がモノクローナル抗体です。

まず、B細胞が標的となるガン細胞やウイルスに感染した細胞に対し、これらの目印にピッタリくっつく抗体を作ります。

これを大量に作ることが出来れば、ガン細胞やウイルスに感染した細胞を一挙にたたくことが可能です。

ところが、B細胞は寿命が短いため、大量生産ができません。そこで試行錯誤した結果、B細胞と無限に増え続ける能力を持つ細胞をドッキングすることに成功し、大量のモノクローナル抗体をつくることが可能になりました。

難治性乳ガン とモノクローナル抗体

細胞の増殖を加速するタンパク質に、HER2(ハーツー)蛋白があり、HER2遺伝子に異変がおこると、細胞の増殖・分化が暴走してコントロールを失い、ガン化すると同時に一挙に進行してしまいます。

乳ガンの15~30%、胃ガンの20~25%に、HER2の異常がみられるといわれています。

このため、ガン細胞表面にあるHER2 という目印に対するモノクローナル抗体がつくられました。

こうしてトラスツズマブ(ハーセプチン)が開発されたおかげで、最も難治性といわれたHER2陽性の乳ガンにも、高い治療効果がみられるようになりました。

難治性潰瘍性大腸炎とモノクローナル抗体

また、潰瘍性大腸炎は国の指定難病のひとつで、大腸に広範囲の潰瘍を生じるため、慢性の血便や下痢が続く疾患です。原因はいまだ解明されていませんが、発症には免疫異常が関わっていると推測されています。

この疾患では活性化したマクロファージ(細菌などを捕食する白血球)やリンパ 球が様々な炎症性サイトカイン(細胞同士で情報をやり取りする物質)を分泌しますが, その中でもTNF-αというサイトカインが最も重要な役割を果たしています。

TNF-αは免疫にかかわる物質の一つで、普段は外敵から身を守る働きをしていますが、過剰になると細胞や臓器に炎症を引き起こすのです。

そこでTNF-αを選択的に阻害するモノクローナル抗体が開発されました。

その結果、ステロイド剤や白血球除去療法が効かない難治例に、インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)ゴリムマブ(シンポニー)などのモノクローナル抗体が著効すると証明されました。現在、潰瘍性大腸炎治療薬の切り札的存在となっています。

関節リウマチとモノクローナル抗体

また自己免疫性疾患である関節リウマチでは、マクロファージからTNF-αというサイトカインがつくられています。

さらにT細胞やマクロファージからIL-6(インターロイキン6)というサイトカインがつくられ、これらが関節の腫れや痛みを引き起こす犯人であることが分かってきました。

そこでTNF-αやマクロファージとT細胞が結合する部位、あるいはIL-6のレセプターに結合して、反応を止めてしまうインフリキシマブ(レミケード),エタネルセプト(エンブレル),アダリムマブ(ヒュミラ)などのモノクローナル抗体がつくられ、劇的な症状の改善がみられるようになりました。