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肥満

肥満ワクチン

cocoparisienne / Pixabay

私たちの腸のなかには、1000種類100~1000兆個もの腸内細菌が生息しています。そしてそれらの細菌を私たちが勝手に分別し、自分たちに有利に働くものを善玉菌、不利に働くものを悪玉菌とし、どちらともいえないものを日和見菌としました。

大雑把に言って、健康なひとの腸内細菌は善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%に分けられ、意外にも日和見菌が半数以上を占めています。

日和見菌はその名のとおり、腸内の状態が善玉菌優位になると善玉菌として働き、逆に悪玉菌優位になると悪玉菌として働く、いかにも日和見な細菌たちです。

肥満者に多い「ファーミキューテス」の細菌たち

ところで、日和見菌の大半(80%以上)は、善玉菌寄りの「バクテロイデス」と、悪玉菌寄りの「ファーミキューテス」のふたつのグループからなり、当然ですが、一方が増えると一方が減る関係にあります。

肥満という面からみると、太ったひとの腸には「ファーミキューテス」、痩せたひとの腸には「バクテロイデス」の細菌が多くみられます。

例えば、脂肪の多い食事を摂ると太るといいますが、単に高カロリーというだけではありません。脂肪食を摂るとこれを吸収するため、肝臓から小腸へ向かって胆汁酸が分泌されます。

じつはこの胆汁酸が、腸のなかのバクテロイデスの細菌群を死滅させるのです。「バクテロイデス」が減れば、代わりに「ファーミキューテス」が増えます。

「ファーミキューテス」の細菌たちは、私たちが食べた食物からエネルギーを取り出し、腸から吸収させる働きをします。このため、ますます肥満が進行することになるのです。

また、痩せたひとに「バクテロイデス」の細菌たちが多いのは、「バクテロイデス」が短鎖脂肪酸を産生するからだと言われています。短鎖脂肪酸は腸の細胞から脂肪が吸収されるのをブロックする働きがあります。このため、「バクテロイデス」が多いと、太りにくいというのです。

「クロストリジウム ラモーサム」を減らす「肥満ワクチン」

最近「肥満ワクチン」で有名になった「クロストリジウム ラモーサム」という腸内細菌は、100年以上も前に見つかっている細菌で、「ファーミキューテス」の一員です。

「ファーミキューテス」の仲間ですから、活発にブドウ糖を体内に取り込み、肥満を助長します。以前から糖尿病の発症に関わっているのではと疑われている菌です。

このたび、大阪市立大学の植松智教授、藤本康介助教らの研究グループが、この「クロストリジウム ラモーサム」を減少させるワクチン(肥満ワクチン)の製造に成功しました。

じつはワクチンができても、腸内の有益な細菌まで殺したのでは、かえって健康を害するため、この研究は想像以上に難航したのです。

こうしてつくられた「肥満ワクチン」で「クロストリジウム ラモーサム」を減らしたところ、高脂肪食を与えたマウスの体重増加を抑えることに成功したそうです。

具体的には、まず無菌マウス16匹に肥満の人の腸内細菌を移植し、高脂肪・高カロリーの餌を与えました。このうち肥満ワクチンを注射したマウス9匹は、腸内細菌が糞のなかに排出されて減り、肥満ワクチンを注射していないマウス7匹と比べ、体重増加が12%抑制されたそうです。

肥満ワクチンで「クロストリジウム ラモーサム」が減少すると、小腸の粘膜からブドウ糖を吸収するはたらきが低下し、肥満が防止できるのではと考えられます。

今後、人での臨床試験に成功すれば、近い将来、食べても太りにくい「肥満ワクチン」

が実際に使われるようになるかもしれません。

やせ菌?「クリステンセネラ ミヌタ」

また一方で、「クロストリジウム ラモーサム」と同じ「ファーミキューテス」の仲間のうち、「クリステンセネラ ミヌタ」という菌が注目を集めています。

腸の中にこの菌を持つひとは、体型がやせ型になるという論文が著名学会誌「Cell」に掲載され、話題になっているのです。つまりこの菌は、肥満度を示す体格指数(BMI)が低い人の腸内に多いこと、更に、肥満促進マウスにこの菌を定着させると、体重増加が抑えられることを明らかにしたのです。

現在その仕組みは分かっていませんが、「クリステンセネラ ミヌタ」がいると、そのひとの腸内細菌たちがやせ型のパターンになるのではと推測されています。

肥満に悩む人々にとって、「肥満ワクチン」とともに、肥満を解消する夢の薬となる可能性を秘めています。