COVID 19

新型コロナウイルス

(2)治療薬はないか?


新型コロナウイルス(以下新型コロナと略す)感染症は、最近、匂いや味を感じないことで発覚するケースもありますが、喉の痛みや微熱など普通の風邪と同じ症状か、あるいは全く症状のない感染者も少なくないという特徴があります。

こうして、しばしば本人が気付かないまま周りの人にうつしてしまうため、感染しないように身を守るには、なるべく人と会わないようにするか、マスクやうがい、手洗いで防御を徹底する以外、方法がありません。

もし、偶然コロナ感染者に接してしまった場合には、2日で発病することもあれば、2週間たって発病することもあり、最低2週間は自宅待機して様子をみなければなりません。

今、私たちが最も注意しなければならないのは、「密閉された場所で密集せず、互いに密接しないこと」で、これが集団発生を防ぐ3条件ということになります。

またこの病気の最も厄介な点は、現在病気に罹っている人に決定的な治療薬がないことと、罹っていない人には、予防するワクチンがないということにつきます。つまり、自然に治るのを待つ以外にないのです。

新型コロナに対するワクチンの開発には1年以上かかるとされ、特効薬もないことから、それが出来上がるまでのつなぎとして既存の薬で代用できないか、模索しているのが現状です。ここでは、そのなかから期待できそうな薬を、順を追って紹介します。

 1. 期待される薬剤 「アビガン

第1に、2014年、我が国で承認された富士フィルム富山化学の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」(一般名ファビピラビル)が採り上げられています。

「アビガン」は、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスの増殖を抑制します。新型コロナも同じRNAウイルスであることから、「アビガン」は新型コロナの増殖をも封じ込めると期待されているのです。

実際、「アビガン」による致死性のインフルエンザ感染実験でも、全マウスが生存するという効果がみられたこと,流行の最初から終息まで、耐性ウイルスができなかったことから、きわめて理想的な抗ウイルス薬と評価されています。

ただ、「アビガン」は新たな感染細胞には強力に働きますが、既に感染した細胞に対してはあまり効果がありません。したがって、感染初期にこれを使用すれば非常に効果があり、肺炎の重症化も防ぐことが出来そうです。このため、ウイルスの拡散を阻止する薬と併用するのがもっとも理にかなっています。

現在「アビガン」は、新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、将来の危機に備えてすでに国が200万人分を備蓄しています。

また、中国政府は「アビガン」が新型コロナの肺炎症状に改善効果を示したため、治療薬の1つとして採用する方針を明らかにしました。

ただ、妊娠中に服用すると胎児に副作用が出るおそれが指摘されたため、妊婦には使えないことになっています。

2. 期待される薬剤 「レムデシベル

第2に、米ギリアド社がエボラ出血熱治療薬として開発した低分子化合物「レムデシビル」が、世界的には最も有望視されているようです。

新型コロナは、ひとの細胞内に侵入したのち、さまざまなタンパク質を合成しながら自身のRNAを増やしていきます。

核酸アナログ製剤である「レムデシビル」は、このRNAの合成過程に入り込み、システムを撹乱して合成を妨害し、たとえ低濃度でも、エボラウイルスばかりか、新型コロナの増殖も抑えることがわかり、大いに治療効果が期待されているのです。

先述した「アビガン」の作用機序によく似たメカニズムと考えられています。

中国ではすでに新型コロナの患者さんにこれを投与したところ、一定の効果がみられたため、現在ギリアド社が日・米・中での最終治験を行っているところです。

3. 期待される薬剤 「ヒドロキシクロロキン

第3に、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」「リン酸クロロキン」に新型コロナの抑制効果があることは、すでに中国国家衛生健康委員会が報告し、治療ガイドラインで推奨されていました。

フランスでも地中海感染症大学病院研究所が、ヒドロキシクロロキンにより新型コロナのウイルス量が大幅に減少したと発表しました。とくに抗生物質アジスロマイシンと併用すると効果的であったといいます。

これに応じる形で、米食品医薬品局(FDA)も2020年3月、新型コロナ患者さんを対象に、リン酸クロロキンとこれに類似のヒドロキシクロロキンとの緊急使用許可を出しました。

米国ではすでにマラリアなどの治療薬として承認されていましたが、SARSウイルスに効果が認められたことから、新型コロナにも有効ではないかと期待を寄せているのです。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの側鎖にヒドロキシル基が付加されたもので、類似の薬剤ですが、過量投与すると強い心臓毒性があるため、慎重な投与が望まれています。

日本では、リン酸クロロキンは承認されていないものの、ヒドロキシクロロキンは全身性エリテマトーデスの治療薬として、すでに使用されています。

国内でも、抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」で効果の乏しかった複数の新型コロナの患者さんに、ヒドロキシクロロキンを投与した結果、症状改善例がみられており、現在群馬大学では、ヒドロキシクロロキンとロピナビル、リトナビルの3剤併用療法の臨床研究が実施されています。

4. 期待される薬剤 「オルベスコ

第4に、帝人ファーマの気管支喘息治療薬「オルベスコ」(一般名シクレソニド)の奏功例が、我が国で報告され、注目を集めています。

実際に新型コロナに感染し、呼吸状態が悪くなった患者さんにこれを投与したところ、数日のうちに症状の改善をみたという事例が複数報告されたのです。

「オルベスコ」は我が国で2007年に気管支喘息治療薬として承認された吸入ステロイド薬です。

国立感染症研究所では、コロナウイルスの一種であるMERS(中東呼吸器症候群)に効く薬を探すため、2年かけてMERSに感染させた細胞に1200種類の薬剤を用いて実験した結果、「オルベスコ」に強いウイルス活性が認められました。

同様に新型コロナに感染させた細胞でも調べた結果、細胞の中のウイルスが100分の1まで減少し、ウイルスの増殖を抑えることが確認できたということです。

神奈川県立足柄上病院ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染した患者さんのうち、肺炎をおこしている3人に、抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」を投与しましたが、改善がみられず、試しに「オルベスコ」を使用したところ、全員が回復したということです。

きわめて少数例であるため、正当な評価は今後に待たねばなりませんが、有力な治療薬として現在各方面から大いに期待が寄せられています。

5. 期待される薬剤 「フサン

第5に、東京大医科学研究所の井上教授らにより、急性膵炎治療薬「フサン」(一般名ナファモスタットメシル酸塩)が新型コロナの治療に効果的という実験結果が発表されました。

通常、ウイルスの表面にあるタンパク質の突起は、ひとの細胞表面にある特定のタンパク質に結合して侵入しますが、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスはさらに人の細胞表面にある酵素を利用して、侵入しやすくすることがわかっています。

「フサン」はこの酵素の働きを止めることで、SARSウイルスに似た新型コロナが人の細胞内へ侵入するのを防ごうとするものです。

井上氏らは、胎児の腎臓由来の細胞と気道上皮細胞を使った実験で、「フサン」に、新型コロナが人の細胞膜と融合するのを阻止する働きがあるのを確認しました。

フサン(ナファモスタット)は点滴薬、フォイパン(カモスタット)は内服薬で、ともに我が国で開発された膵炎治療薬です。

フォイパンは最近、ドイツの研究グループにより、効果があると発表されましたが、井上氏らによれば、フサンはフォイパンの10分の1の濃度でも効果があると指摘しています。

6. 期待される薬剤 「カレトラ

第6に、米アッヴィ社の開発した抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」(一般名ロピナビル・リトナビル配合剤)が、中国をはじめ各国で有効であったと報告され、現在、臨床試験や臨床研究が行われています。

我が国ではすでに2000年に、HIV感染症の治療薬として承認されているものです。

ロピナビルはウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬で、リトナビルはその血中濃度を保ち、効果を増強する役割を担っています。

現在得られている知見によれば、カレトラは、発症後比較的初期であれば有効例がみられ、死亡率の改善も期待できそうですが、重症化した症例にはあまり効果がみられていません。

新たな治療法 ” 血清療法 ” 

これら既存の薬剤に次いで実用化を目指しているのが、回復した患者由来の血液を使った血清療法です。重症患者に投与したところ効果が得られたと、中国から複数報告がされています。

これは新型コロナに感染したあと回復した患者さんから採血させてもらい、その人の体内でつくられたウイルスに対する中和抗体を濃縮して、他の患者さんに投与する治療法です。

感染した患者さんの免疫活性を高めるため、回復の可能性が高くなると期待されます。しかも、ヒト由来の血清成分であるため安全性が高く、新薬の開発より実用化が早まる可能性が高いのです。

現在、中外製薬の抗体医薬「アクテムラ」が、過剰な免疫反応で悪化した重症患者に有効であったと中国で報告され、新型コロナの治療ガイドラインで推奨されています。

また、現在スイス・ロシュ社のほか、米イーライリリー社、米リジェネロン社が、相次いで臨床試験を始める計画を立てており、我が国でも武田薬品が高免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発を進めており、年内の上市を目指しています。

 

新型コロナに罹らない ”ワクチン” の開発

以上、新型コロナに感染した場合の治療法について述べてきましたが、一方で、コロナに罹っていない人のための、予防ワクチンの開発も進んでいます。

先行するのは、国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と米モデルナ社が共同開発中のワクチン「mRNA-1237」です。

これを接種すると、体内でウイルス表面にあるスパイクの蛋白質がつくられ、ついでこれに対する抗体がつくられるため、免疫が活性化されウイルスに感染しにくくなるといいます。

また、米ファイザーと独ビオンテックもmRNAワクチン「BNT162」の治験を開始しています。さらに、「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は米イノビオとDNAワクチン「INO-4800」を、また米ノババックスとナノ粒子ワクチンをそれぞれ開発中です。

これらの激しい競争のなで、我が国でも、ワクチン研究は盛んにおこなわれています。

とくに、大阪大学の森下竜一教授は、この度、新型コロナウイルスの予防用 DNA ワクチンの作成に成功しました。

DNA ワクチンは危険な病原体を使用せず、安全かつ短期間で製造でき、新型コロナに罹りにくいばかりか、重症化を防ぐことも出来ると期待されています。

しかも、弱毒化ワクチンや遺伝子組換えワクチンに比べて、極めて短期間で供給できるメリットがあり、年内使用を目標に研究を進めています。

また、田辺三菱製薬は傘下のカナダ・メディカゴとSARS-CoV-2の植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功し、これを使ったコロナウイルスワクチンの臨床試験を計画中です。

こうして、将来ワクチンが国民全体に実施される様になれば、コロナ騒動も次第に沈静化していくものと予想されます。