梅はその昔、遣唐使が薬木として中国から持ち帰ったものといわれています。とくに、平安時代の医学書『医心方』には、すでに梅の効用がとりあげられています。おもに風邪薬、頭痛薬、下痢止めなどに用いられていたようです。
梅は時代とともに改良が試みられ、戦場携帯食、茶菓子、縁起物などに用いらるようになりました。そして我が国独自の発展を遂げたのち、「梅干し」として、江戸時代からは庶民の口にも入るようになりました。
余談ですが、食卓に酢がなかったころ、梅に塩を漬けてつくられる梅酢が、料理の味付けに使われていました。
このうち、味加減がいいものを「塩梅(あんばい)がいい」といわれるようになり、転じて、「ものごとの具合がいい」という意味に使われるようになったといいます。
さて、その梅干しが近年、栄養食品としておおいに見直されてきているのです。ここでは、その効用について解説します。
1.疲労回復を促進する
梅にはクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸など各種の有機酸が多く含まれるのが特徴です。これらの有機酸は細胞のミトコンドリアで、クエン酸回路というエネルギー代謝の中心となって働いています。
したがって、クエン酸回路の働きが鈍くなると、エネルギーがうまくつくられず、疲労が蓄積してしまいます。
この点、梅は疲労回復にはもってこいの食品と言えます。
とくにクエン酸回路を活性化するため、ネギのアリシンや豚肉、レバーなどのビ タミンB1を一緒に摂ると、効果が倍増するといわれています。
2.血流を改善する
梅を加熱して、ジャムやエキスにすると、梅に含まれる糖とクエン酸が結合し、「ムメフラール」という物質がつくられます。
ムメフラールは、血小板の凝集を抑制し血栓の形成を予防すると同時に、血液の流れを改善する働きがあるのです。
3.動脈硬化を予防する
梅干しに含まれる「梅リグナン」には抗酸化作用をもつポリフェノールが含まれています。
とくにリグナン中のピノレシノールやリオニレシノールは、活性酵素を打ち消す抗酸化力が強いといわれます。
つまり、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を予防することが分かっています。
4.血圧を安定させる
私たちのからだにはアンジオテンシンⅡという生理活性物質があり、これが全身の動脈を収縮させるとともに、副腎皮質からアルドステロンを分泌させ、血圧を上昇します。
梅に含まれるクロロゲン酸(ポリフェノールの一種)は、このアンジオテンシンⅡを除き、血圧を下げるように働くのです。
5.食欲増進効果
梅の酸味成分であるクエン酸は、唾液の分泌を促します。
唾液が多くでると、胃が刺激されて胃酸の分泌が促進され、食欲増進につながります。
6.骨粗鬆症を予防する
日本人に最も不足しがちなミネラルといわれるカルシウムは、骨粗鬆症の予防に不可欠な栄養素です。
梅にはそのカルシウムのほか、マグネシウム、カリウム、リン、亜鉛、鉄などのミネラルが豊富に含まれています。
さらに、梅の酸味成分であるクエン酸は、カルシウムがからだに吸収されやすくする一方、骨から出ていくのを防ぐ働きもしています。
7.食中毒を予防する
梅に含まれているクエン酸は、大腸内を酸性化して細菌の繁殖を防ぎ、食中毒の原因である腸炎ビブリオ菌や黄色ブドウ球菌を殺菌する効果があります。
こうした事実から、おにぎりや弁当に梅干を入れるのは理にかなっていると言えます。
8.熱中症対策に
温暖化の影響で気温上昇が目立ってきており、とくに夏場、屋内、屋外を問わず熱中症の発生が頻発しています。まずは涼しい場所に移動し、からだを冷やす必要がありますが、同時に、汗をかいて失われる水分やナトリウムなどのミネラルを補給することが重要です。
こういう場合、梅干はもっともお薦めの食品といえます。
調味梅干の登場
ところで、梅干しは塩分が多いので防腐効果も高く、クエン酸量も多く、常温で数十年も保存ができる利点があります。
しかし梅干し1粒に2グラムもの塩分が含まれるため、最近は商品のラベルに「調味梅干」と記載された減塩調味を施したものが、売られるようになっています。
たとえば、赤ジソの葉に漬け風味をつけた「しそ梅」、蜂蜜を加えた「はちみつ梅」、昆布で味つけした「昆布梅」などです。
ただし調味梅干では、塩分が少なくなることで保存性が下がるため、賞味期間が短くなり、クエン酸などの有用な有機酸が失われがちとなる弱点があります。