我が国の新型コロナウイルス(新型コロナと省略)感染は、2020年10月現在、1日400~600人の感染者が出ているのですから、すでに新型コロナを抑え込んだと信じているかたは少ないでしょう。
世界に目を向けると、台湾やニュージーランド、感染源といわれた中國では、ウイルス封じこめに成功し、感染者ほぼゼロになっています。
一方インドでは、1日の感染者が8~9万人、死者数は1000人にのぼっており、アメリカ、ブラジルでも1日の感染者は3~5万人、死者1000人前後となっています。
こうした外国の感染状況を確認したうえで、少数ながら感染者が持続している我が国の現況を眺めると、すでに感染を抑え込んでいるとみる見方と、とてもそうは言えないという見方ができそうです。
1.日本はすでに新型コロナを抑え込んでいるという見方
まず新型コロナの感染者は世界全体で3500万人、死者が100万人に対し、日本では感染者8.5万人、死者1600人と、随分少ないことが分かります。
また致死率についても、日本は0.9%で、世界(3~6%)とくらべかなり低くなっています。
なんといっても、この事実は新型コロナを抑えこんでいると主張するのに、説得力のある数字といえましょう。
しかし海外からは、我が国がコロナ封じ込めに失敗したはずなのに、なぜ感染者数も致死率も低いのか不思議だという声がしばしば聞かれます。
交差免疫説
その理由として、最近指摘されているのが「交差免疫説」です。
たとえば、風邪の原因となるコロナウイルスと新型コロナウイルスは、塩基配列の約半分が同じです。
このように、風邪をひいてコロナウイルスに感染した場合、そこで獲得された免疫力が、構造のよく似た新型コロナをも排除し(交差免疫)、重症化を防いでくれているというのです。
とくにこの春、政府が武漢の封鎖後も中国の入国制限をしなかったことが、かえって功を奏したという皮肉な説があります。
つまり昨年末から今年の初めにかけて、新型コロナのうち、比較的弱いS型、ついでK型のウイルスが、まず最初に我が国へ入ってきたといいます。
つまり、インフルエンザウイルスにA、B、C型があるように、新型コロナにも弱毒のS型とK型、さらに強毒のG型があるらしいのです。
そして、S、K型に対する抗体が先につくられたおかげで、その後武漢やヨーロッパから入ってきた、毒性の強いG型コロナに対する交差免疫がつくられ、重症化を防ぐことができたのではないかというのです。
これはかなり説得力のある説だといえます。
訓練免疫説
また、我が国では幼少期、結核に対してBCGを接種し、自然免疫を獲得しています。
この能力は長期間記憶されるため、新型コロナに対しても自然免疫力が発揮され、日本人は重症化しにくいという「訓練免疫説」もあります。
日本人の生活習慣説
そのほか、日本人の生活習慣も重症化や致死を防いでいるといわれます。たとえば、こまめに手洗いをする、マスクをつける、室内では靴を脱ぐなどの習慣が重症化を防いでいるというのです。
さらに、我が国の高齢者介護施設では、職員および入居者の感染予防が徹底していたため、クラスター(集団感染)の発生が随分抑えられました。このことも、我が国が重症化を防げだ理由のひとつだといわれています。
なにしろ大半の欧米諸国では、第1波におけるコロナ死亡者の約半数が介護施設入所者だったのです。
遺伝子説
また、最近、国立国際医療研究センター研究所などの発表によると、気道や心臓、腎臓などにある蛋白質の「ACE(エース)」と呼ばれる2つの遺伝子のうち、アジア人に多いACE1の遺伝子が「I/I(アイアイ)」というタイプの人には、新型コロナの感染や死者が少ない傾向がみられ、遺伝子的にも我々アジア人には有利な結果が得られたというのです。
これも致死率が低い原因になっているかもしれません。
2.日本は新型コロナを抑え込めていないという見方
たしかに、我が国は感染者数も致死率も世界のなかで随分低いことが知られています。
しかし、いまだに新たな感染者が1日、400~600名出ており、高止まりという状況判断がなされています。
あまりに少ない抗体保有者
ご承知のように、第1波の感染のあと新型コロナに対する抗体検査を行ったところ、ロンドンでは16.7%、ニューヨークでは12.3%に対し、東京はわずか0.1%という結果でした。
日本のなかでは東京がもっとも新型コロナに晒された処とされていますから、外国並みに高い数値が出ると予想されていたのです。
その結果をみると、抗体をもった日本人は欧米の100分の1にも満たなかったということになります。
スウェーデンの目指した集団免疫
ところで、集団免疫の獲得を目指したスウェーデンでは、みんなが感染して、国民の60%以上が新型コロナに対する抗体を持てば、コロナ問題は解決するとして、特別な防禦策を採りませんでした。
その結果、当初は感染による犠牲者が続出し(4月中は1日の死亡者100人前後)、海外から痛烈な非難を浴びました。しかし、最近は集団免疫の獲得が近づいたためか、死亡者もゼロの日が多くなり、感染は終息してきたとみられています。
我が国は海外から、集団免疫という点でスウェーデンと対極にあるとみられています。つまり、日本人はほとんど新型コロナに晒されてないのだから、ワクチンが登場するまで3密を避け、感染予防を徹底する必要があるということになります。
したがって現在の日本は、いまだ新型コロナを抑え込めていないというのが妥当な見方ということになります。
すでに日本人が免疫を獲得している可能性は?
これに対し、すでに日本人の大半は新型コロナに対する免疫を獲得しているのではという意見があります。
その内容は以下の通りです。
まず、私たちがウイルスに感染すると、マクロファージなどの免疫細胞が真っ先に現場に駆けつけ、そのウイルスを死滅させます。これを「自然免疫」といいます。
しかし、それでウイルスが死滅しない場合は、マクロファージから連絡をうけた司令塔のT細胞が、強力なキラーT細胞に命令し、ウイルスを攻撃させます。
同時に司令塔のT細胞は、B細胞に「抗体」を大量に作るように指令を出します。そこで、指令を受けたB細胞はウイルスに対する「抗体」を大量に作り出し、補体と協力してウイルスに感染した細胞を破壊していきます。これを「獲得免疫」といいます。
問題はここです。
もし新型コロナに対し、自然免疫で治った人が大勢いたとすれば、抗体ができる前に治ってしまうことになり、抗体検査をしても陽性にならないというのです。
もしそうなら、日本人の多くはすでに新型コロナに罹っており、今後集団発生する危険は少ないのではという楽観的な見方もできます。
3.インフルエンザは新型コロナの流行を抑えられるか?
たとえば、わたしたちの大腸のなかでは、いわゆる善玉菌と悪玉菌、その中間の日和見菌が競合しないように仲良く分布しています。つまり善玉菌と悪玉菌は、一方が増えると一方は減るという具合に、互いに干渉しながらバランスを保って生息しているのです。
ウイルス干渉
インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスのあいだにも、このような逆相関の関係があるようだというのです。
つまり、インフルエンザが流行ると新型コロナは沈静化し、新型コロナが流行るとインフルエンザは沈静化するというのです。
その原因は、一方のウイルスがからだに侵入するのに必要なレセプターや、増殖に必要な成分を独占あるいは破壊するため、他方のウイルスが入り込めないからではないかと考えられています。
この現象を『ウイルス干渉』といいます。
つまり、昨年末から今年始めにかけ、日本に新型コロナが流入したため『ウイルス干渉』が起こり、今春はインフルエンザの流行が止まってしまったというのです。
これが本当なら、国民全員にインフルエンザの予防接種を勧めるのはどうかという議論がおこりそうです。
今後の専門家の意見に注目していく必要があるとおもわれます。