ENVIRONMENT

環境問題

プラスチックのない世界へ

マイクロプラスチックの恐怖

 150年ほど前、プラスチックが世に出たとき、これは便利なものが出来たと世間から称賛を浴びたものです。

ところが最近では、燃やすと二酸化炭素が出て地球温暖化を引き起こす、石油資源が枯渇するといわれ、ポイ捨てで海へ流れ出ると海洋汚染を引き起こすといわれ、さらにこれを食べた魚貝類から人の口に入り、健康を損なうと危惧されるようになりました。

まことに散々な叩かれようです。

しかし現在では、もはやプラスチック製品を使わないでは生活できないほどに、密着した存在になっています。

ペットボトル、ストロー、レジ袋、ラップ、ハンガー、バケツ、洗剤ボトル、灯油タンク、文房具、衣類の繊維、挙げればきりがないほど、ほとんどの生活用品にプラスチックが用いられています。

このため世界の生産量は過去50年間で24倍となり、さらに今後20年で今の2倍になるといわれています。

プラスチックは炭素の結合が緩いため加工しやすく、しかも丈夫ということで、一挙に世界中に広まりました。しかし逆にこれが弱点にもなりました。

つまりプラスチックは、紫外線に当たると炭素の結合が切れて劣化し、容易に粉砕されてプラスチックごみ(以下プラごみ)になってしまうのです。

とくに直径5ミリ以下のプラごみは「マイクロプラスチック」と呼ばれて、忌み嫌われる存在になりましたが、残念ながら全てのプラごみは、最終的にはマイクロプラスチックになってしまうのです。

そもそもプラスチックは人工的に作られたものです。生ゴミなどと違い自然には分解されず、燃やさない限り消失することがありません。

このため、廃棄したビニール袋やペットボトルなどのプラごみは、下水を経て海に流れ出し、紫外線や波の衝撃により数年かけて細かく砕け、マイクロプラスチックに姿を変えます。

この小さくなったマイクロプラスチックを海藻、魚介類が摂取し、さらに人々の口を経て、甚大な健康被害が危惧されるようになりました。

このため、マイクロ化する前に回収して、最悪の事態を防ごうという機運が高まりました。

ところがせっかくの機運に水を差すように、忌避すべきマイクロプラスチックを商品化したスクラブ剤(毛穴の汚れを落とすための細かな粒子を含む)が登場してきました。よりグレードの高い歯磨きや洗顔剤、ボディソープをめざしたものです。

もっとも、多くは植物種子や海塩、コーンスターチ、セルロースなどを材料にしていますが、なかにはポリエチレンなどのマイクロプラスチックが用いられているのです。

かくして、使用済みマイクロプラスチックは家庭から下水に流れ出ますが、微粒子のため排水処理施設では回収できず、そのまま海に漏れ出てしまうのです。
  

マイクロプラスチックの健康被害

ところで、プラスチック製品には、柔軟性や耐久性をもたせたり、着色したりするために様々な添加剤(7%を占める)が加えられています。

紫外線で壊れないようにする吸収剤(UV-Pなど)、加工しやすくなる可塑剤、燃えにくくなる難燃剤などです。

企業側は、自然界ではプラスチックから添加剤が溶け出すことはないと言明していましたが、マイクロプラスチックが魚介類を経てひとの胃に入ると、胃液で溶け出し、体内に蓄積される可能性が指摘されたのです。

この添加剤にはアレルギーや免疫力の低下を来たす化学物質が含まれており、からだの内分泌ホルモンに異常を来たすことが危惧されています。

さらに海洋で粉砕されたマイクロプラスチックには、化学汚染物質(ポリ塩化ビフェニルなどのダイオキシン類)を吸着しやすい性質があります。このため、魚介類を通じて我々の体内に溜まると、健康被害をもたらすことは必至といわれています。

SDGs(持続可能な開発目標)をめざして

マイクロプラスチックに代表される環境汚染問題が世界中で議論されるようになり、これに呼応して2015年、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)のために17の目標がたてられました。

このうち、接続可能な消費と生産のために、「つくる責任、つかう責任」が論議された結果、①廃棄物の排出量削減②リサイクルなど再生利用の推進を推し進めようということになりました。

①  廃棄物の排出量削減

2020年10月、わが国はパリ協定に基づき、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、脱炭素社会の実現を宣言しました。そうなると今後、とくにCO2やメタンガス排出が多いプラスチック製品は、焼却できなくなります。

まして海は30%~50%のCO2を吸収しているのに、プランクトンがプラスチックを摂取すると光合成が半分に低下するといわれ、プラスチックは焼却することも海洋投棄することもできなくなります。とすれば、今後プラスチックの生産を抑えないかぎり、CO2排出を抑えることは困難です。

このままでは、30年後には海洋のプラごみは魚の量を超えるといわれ、その対策として国連サミットでは、3つのアプローチ“3R”を提言しています。

3Rとは、Reduce(発生の抑制)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクル)を意味します。

最初のR、Reduce(リデュース)は、プラスチック製品の生産を減らし、より耐久性の高い製品を造り、使用期間を延ばすことで廃棄物の発生を少なくしようという運動です。

消費者としては、耐久性が高く、材料や部品の少ない製品を買うようにし、日頃からマイバック、マイボトル、マイハシなどを携帯しようというものです。

つぎのR、Reuse(リユース)は、使用済のプラスチック製品や部品を、捨てずに繰り返し使用しようという運動です。できれば購入時、部品交換の可能な製品を選ぶ配慮が求められます。

②再生利用の推進

最後のRはRecycle(リサイクル)です。

環境資源を守るため、プラスチックのリサイクルには3つの方法があります。

一つ目はマテリアルリサイクルで、廃プラスチックをプラスチックのまま原料にして新しい製品を再生する技術です。

こうしてリサイクルされた製品は、軽くて丈夫、切断や接合が容易で、十分鉄や木材の代替として利用することが出来ます。現在、マテリアルリサイクルはペットボトルを中心に、文房具、日用品や包装の材料などに変換されています。

しかし、複数の素材が含まれていたり汚染がひどい場合は、分別や異物除去が困難で、リサイクルは難しくなります。

リサイクルの二つ目はケミカルリサイクルで、プラごみを油化・ガス化・コークス炉化学燃料化により再生利用しようとするものです。

リサイクルの三つ目はサーマルリサイクルで、プラスチックごみの焼却時に発生する熱エネルギーを、いったん回収して利用するものです。

3Rのなかでも、最も重要なのがリサイクルであるにもかかわらず、現実にはそのリサイクルがうまくいっていないのです。それにはいくつかの理由があります。

通常、プラスチックはリサイクルするたびに不純物が混入し、劣化しがちです。たしかに、透明なペットボトルからもう一度透明なボトルをつくるのは可能ですが、実際にはコストがかかって採算がとれにくいのです。

また、プラスチック製品は通常、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなど複数の樹脂からできています。ところが再生には同じ材質の樹脂が求められるため、リサイクルを困難にしているのです。

さらに、弁当の容器につかわれるプラスチック容器では、残渣処理や油汚れを洗浄するのにコストがかかるため、やむなく焼却や埋め立てに廻されるケースが多いのです。

プラスチックに依存しない社会とは?

2018年時点で、世界のプラスチックリサイクル率は15%であり、我が国のそれも25%と低迷したままです。このため政府は、2025年の脱炭素社会実現に向け、どうしたものかと考えあぐねている状況です。

この苦境のなか我々はいったん立ち止まり、プラごみは「分ければ資源、混ぜればゴミ」という認識を新たにすべきでしょう。

これをしっかり頭に入れたうえで、プラスチックに依存しない社会に向け、官民一体となって取り組んでいく必要があります。つまり、CO2排出を抑えるために、「必要な分だけ購入する」「必要以上に供給を抑える」「できるだけ使い切る」ことをもう一度確認する必要があります。

具体的には、我々消費者は使用後のプラごみの洗浄と分別を、互いに責任をもって履行する覚悟が必要です。

そんな窮屈な注文に応ずる者がいるだろうかと懐疑的になっていたのでは、事態は好転しません。

現に住民が一体になって、ごみのリサイクルに成功している町があるのです。

鹿児島県大崎町では平成10年から缶やビン、ペットボトルの分別を始めると同時に分別用ゴミ袋を導入し、住民、行政とリサイクル業者が力を合わせることで、80%を超える高いリサイクル率(12年連続日本一)を達成しているのです。

また神奈川県鎌倉市でも、ゴミを有料化することで明らかにごみの量が激減し、現在リサイクル率は50%を超えているのです。

一方、プラスチック製品を生産・販売する会社には、みずから使用済み製品を回収し、責任をもってリサイクルしていく覚悟が求められます。

事実、花王・ライオンの大手二社は、連携してプラボトル自体をなくすフィルム容器を開発し、完全リサイクル化に近づいています。

子孫に持続可能な循環型社会をもたらすために、私たちは身を切る覚悟をもって、プラスチックに依存しない社会を目指すべきではないでしょうか。