ヒトの感情と神経伝達物質
わたしたちの脳の神経は140億もの神経細胞が多数の突起を出しながら、突起同志が互いに結び合っているような形をとっています。
しかし実際には、僅かな隙間を保ちながら向かい合っているのです。
この僅かな隙間(シナプス)を連絡しているのは、約50もの神経伝達物質と呼ばれる化学物質です。
ドーパミン・ノルアドレナリン・アドレナリンの3つはチロシンというアミノ酸から合成されます。
化学構造が似ているので、総称してカテコールアミンと呼ばれています。
この3つの化学物質(神経伝達物質)が中心となって、人の感情がつくられ、コントロールされているのではないかと考えられています。
まず、興奮することがあり怒りがこみ上げてくると、ノルアドレナリンが出ます。
また恐怖におそわれたり、不安に駆られるときには、アドレナリンという物質が出ます。
この2つの物質は非常に似ていて、一緒に出てくることが少なくありません。
突然目の前に、子供が飛び出してきたとき、危ない!と驚いたとたん、アドレナリンが出てきます。
しかし、それに引き続き、危ないじゃないか!と怒りがこみ上げてくるとノルアドレナリンが出でくるといった具合です。
愛と憎しみは紙一重
同じ興奮でも、非常に楽しく快適な気分のときには、ドーパミンという物質が出てきます。
この三つの化学物質が様々に配合されることによって、複雑な感情が生まれてくるようなのです。
例えばドーパミンが沢山出て、ノルアドレナリンが少ししか出ないと愛情が生まれます。
逆に、ノルアドレナリンが沢山出て、ドーパミンが少ししか出ないと憎しみになります。
文字どおり、愛と憎しみは紙一重なのです。
実際には感情を形作っている化学物質は他にも数十種類あることがわかっていますが、もっとも重要な働きを担っているという点で、この三つの物質の関係を感情の三角形といっています。
感情の三角形
アドレナリン、ノルアドレナリンは、突然ストレスが加わると、これに向かって闘うか逃避するかいずれかの体勢をとり、交感神経を刺激して血管を収縮し血圧を上昇させ、心拍数を高めます(胸がどきどきする)。
意欲を失わず、生存するためには必須の神経伝達物質といえます。
一方ドーパミンは快感ホルモンとも呼ばれ、好感をもたれる神経伝達物質です。
脳の奥の脳幹というところにあるA-10(エー・テン)と呼ばれる神経細胞から前頭葉にいたる神経の通りみちを快感神経系といいますが、ドーパミンはこのA-10にスイッチを入れ快感を呼び起こす働きをしています。
子供の頃はドーパミンの分泌が盛んなので、ちょっとしたことでも大喜びできます。
しかし年とともにドーパミンの分泌が減るため、中高年になるとものに感動することがなくなり、快感を覚えることも少なくなりがちです。
また、ドーパミンには体の動きをコントロールする働きもあります。
年とともに体の動きがぎこちなくなるのは、ドーパミンの出が悪くなるからだともいわれています。
沢山出ればよいとも限らない
しかしそのドーパミンもいくらでも出ればよいというものではありません。
ドーパミンは構造が覚醒剤と似ているため、分泌されると覚醒剤使用時のようなハイな気分になりがちですが、さらに出過ぎると、見えないものが見えたり(幻視)、聞こえないものが聞こえる(幻聴)など、統合失調症という病気の症状が出てきます。
このドーパミンを抑制するのがGABA(ギャバ)神経と呼ばれる神経系で、ドーパミンが出過ぎたと判断すると、ギャバ神経からギャバという神経伝達物質がでて、これを押さえます。
逆に、ドーパミンが分泌されなくなると,パーキンソン病という病気を引き起こし、記憶力が低下し、反応が鈍くなり脱力感、無気力が目立ってきます。
立ち上がって歩こうと思っても身体が震えたり、すくんで歩けなくなります。
脳を活性化させる食べ物のことをブレイン・フーズといいます。
その代表的なものが、大豆食品(煮豆、豆腐、納豆、枝豆、おから)です。
大豆には、レシチンやチロシンという栄養素が多く含まれており、チロシンには、ドーパミンやノルアドレナリンの分泌を高める作用があります。
それだけに神経細胞の活性化には、大豆食品が最適だといえるでしょう。