ゲノム編集とは
ゲノムとは、細胞の核にあるDNAに含まれるすべての遺伝情報をいいます。そしてゲノム編集とは、DNA切断酵素である人工ヌクレアーゼを使って、DNAの遺伝子の狙った場所の生物遺伝子を壊したり、切った場所に別の遺伝子を入れて置き換える技術をいいます。
ある働きをしている遺伝子領域を切断し、その働きを失わせることをノックアウトと呼び、逆に切断したところにDNAの断片を挿入し、それによて新たな働きを得させることをノックインと呼びます。
ゲノム編集により、もとあったゲノムDNAをまったく異なるものに生まれ変わらせるのです。つまり、生物の特徴をピンポイントで変えることが可能になったのです。
遺伝子組み換えと、どこが違うか
ゲノム編集も遺伝子組換えも遺伝子を操作するという点では同じです。
しかし、ゲノム編集は特定の遺伝子を指定してその遺伝子の情報をピンポイントに操作できるのに対し、遺伝子組換えでは、特定の遺伝子は指定できず、狙った遺伝子を組み換えすることはできません。
したがってゲノム編集は、安全性や確実性において遺伝子組換え技術を遙かに凌ぐものといえます。
ゲノム編集の臨床応用
このゲノム編集は、不妊、難病の原因に関する研究や、遺伝子治療あるいは新薬の開発にきわめて有力な手段となっています。
たとえば、米国や英国では、エイズ患者さんの血液からリンパ球を取り出し、ゲノム編集により遺伝子を修復する研究がおこなわれています。
エイズウイルスはヒトの免疫細胞などに感染し、DNAを書き換えることで増殖します。現在の医療では抗ウイルス剤でウイルスの増殖は抑えられるものの、患者さんは一生内服薬を飲み続けなければなりません。
そこで米国・テンプル大学の Kamel Khalili教授らは、実験室環境ではありますが、ゲノム編集により、感染した免疫細胞のDNA配列からエイズウイルスが書き換えた部分を切りとってしまうことで、エイズウイルスの影響を取り除くことに成功しました。臨床応用まであと少しという段階に来ています。
また、ゲノム編集はひと以外にも、農作物や家畜の品種改良、あるいはバイオ燃料に適した植物の開発など広範囲に用いられています。
ゲノム編集の危険性について
受精卵を用いたゲノム編集については、遺伝性疾患の予防に役立つという期待と裏腹に、デザイナーベイビーに利用される可能性や生命の萌芽に操作を加える危険性が懸念されています。
現在世界では、「ゲノム編集したヒト受精卵や生殖細胞を生殖の目的で使用すべきではない」という意見が支配的で、わが国でも内閣府の生命倫理専門調査会は、ゲノム編集のヒト受精卵への応用は基礎的研究に限って容認するとし、臨床利用については容認していません。
確かにゲノム編集は素晴らしい技術ではありますが、一方でそれによっておこる弊害にも留意しておかねばなりません。
たとえば、われわれ人類は20万年もの間、その大半を飢餓と戦ってきました。そして、ようやく飢餓に耐えうる強いからだを作り上げたといえます。
ところがこの数十年、われわれはかつてない飽食の時代を経験するようになり、飢餓に強いかわりに、糖尿病になりやすくなってしまったといえます。
そこで慌てて、ゲノム編集をおこない、糖尿病になりにくいからだを手に入れたとします。
そして、その遺伝体質が次世代へと受け継がれていった場合、将来、世界に食料危機が起こったときには、飢餓に耐えられる人がいなくなってしまうという事態が危惧されます。
したがって、現在の都合だけで安易にゲノム編集をすることには、慎重でなければならないと思われます。