私たちのからだは遺伝子という設計図にそって造られています。
まず、遺伝子のDNA情報はいったんmRNAに転写されます。次にmRNAはリボソーム(タンパク質の合成工場)へ向かい、そこでmRNAの情報を見ながらアミノ酸をつないで、タンパク質を合成していくのです。
このRNAの断片をマイクロRNAと呼びます。直接、タンパク質合成には関わらないため、遺伝情報の「ごみ」という扱いでした。
ところが、最近このマイクロRNAが特定のmRNAに作用して、リボソームでのタンパク質合成を制御していることが分かってきました。
とくに、ガンの発症や記憶の形成など、極めて高次の生命現象に深く関わっていることが判明したのです。
大阪大の森正樹教授(消化器外科)らのチームは、普通の細胞をips細胞などの万能細胞に変化させるマイクロRNAが存在するのではないかと予測。
マウスをつかって、どの細胞に分化するか決定する前の「幹細胞」だけにあるマイクロRNA六十数個を発見しました。
そのうちのある3種類を組み合わせ、皮膚や脂肪の細胞に入れると、一部の細胞がips細胞に似た幹細胞に変わることを発見しました。
また、マイクロRNAが遺伝子の100分の1に満たないサイズのため、細胞に振りかけるだけで簡単に吸収され、幹細胞をつくることができました。
彼らのグループは人の細胞でも同様の成果を得たため、この幹細胞をmi-ips(ミップス)細胞と名付けました。
ウイルスを運び屋にして遺伝子を組み込むips細胞の作製には、細胞内の遺伝子を傷つける危険がありましたが、“mi-ips(ミップス)細胞”にはその心配がありません。
森正樹教授によれば、マイクロRNAは1種類で複数の遺伝子に働くため、今後現在の3種類から1種類に減らせる可能性がありそうです。
簡便かつ安全なこの手法には、今後万能細胞の作成に多大な貢献をもたらす期待が集まっています。