使用不能となったからだの組織や臓器を取り戻す「再生医療」は、iPS細胞やES細胞が脚光を浴びていますが、現在のところまだ実用化にはいたっていません。
また他人より臓器移植の提供をうけるにしても、恩恵に浴することができるひとは僅かですし、拒絶反応という壁に悩むことが少なくありません。
そこで、人工腎臓のような機械で人工透析をしたり、骨折した部分に人工骨をはめ込んだりする人工臓器が開発されているのが現状ですが、これもまだまだ要望を満たすところには至っていません。
そのほかにアプローチする方法として、現在、ティッシュエンジニアリング(組織工学)が試みられています。
これは生命科学と工学技術を駆使して、生きた細胞から失った組織や臓器をつくり出そうとするものです。
失った組織や臓器を取り戻す
つまり、患者さんの細胞(人に相当)とその細胞が増殖するための足場(住まいに相当)となる細胞外マトリックス、また細胞が生きていくための栄養源(食糧に相当)である細胞増殖因子の3要素によって、目的とする組織をつくろうとするものです。
住まいに相当する細胞外マトリックスは、ぶどうの房のような細胞をそれぞれ適切な位置に収めるため、蜂の巣のような構造になっています。
そのマトリックスを人工的に作成し、うまく細胞を入れ込むことで、失った組織や臓器を取り戻そうというのです。
現在、シャーレの上で大量の細胞を増やす技術はできていますが、増殖を終えた段階で機能を失い、思惑通りの働きをしてくれないという悩みがあります。
また、出来上がった人工臓器をからだに挿入した後は、細胞外マトリックスは、からだに吸収され、消えてしまうものでなくてはならず、まだまだ課題はつきません。
現時点では、角膜損傷や失明に角膜移植する角膜上皮や、変形性関節症や離断性骨軟骨炎などに培養軟骨が試作されている状況です。