なぜ感染は高止まりしたままなのか?
新型コロナウイルス(以下新型コロナ)はオミクロン株の感染爆発により、2月5日には、全国で1日10万人の感染者を出す事態となりました。(第6波)
当初、死亡の危険性はデルタ株の2分の1以下といわれましたが、なにより、すさまじい感染力に晒された結果、感染者の爆発的な増加を招き、死者は第5波の3倍に達してしまいました。
AIによれば、3回目のワクチン接種が進んだ結果、東京都の1日あたりの新規感染者数は3月下旬には6000人までで高止まりする見通しで、もし花見、卒業式などで人の動きが活発になれば、1万4千人まで増加するというのです(名古屋工業大学)。
実際、3月29日現在、1日感染者数は平均4万人(東京6500人)でピーク時の2分の1まで減りましたが、ここしばらくは高止まり状態が続いています。
政府は第5波襲来に懲りて、供えは万全のはずでしたが、押し寄せた第6波は予想をはるかに越える感染爆発をおこし、またたくまに保健所はお手上げ状態となりました。
本年2月には、全国の自宅療養者は58万人に達し、ついに“みなし感染”という苦渋に満ちた診断をせざるを得なくなりました。
つまり厚労省は,感染者の同居家族が発熱、咳など発症すれば,もはや検査なしでも医師は「コロナ感染」と診断してよいというのです。
いささか乱暴な話しですが、現状をみれば多少のミス(コロナと間違って診断される危険)には、目をつぶらざるを得ないというわけです。
保健所は終日、自宅療養者の健康観察に追われて全員には目が届かず、もはや「ご自分で病状を観察してください」とお願いせざるを得ない事態となっています。
なかでも、第6波の年代別感染者は19歳以下が31%で最も多く、60歳以上の高齢者も13%と高いのが特徴です。
オミクロンが特に感染力の強いことを考慮すれば、今回、防衛意識の低い若年層に感染者が急増するのは当然ですが、その人達が家庭にウイルスを持ち込んで、高齢者にうつしているものと推測されます。出歩かない高齢者層は、ほとんど自宅でしか感染する機会がないからです。
たしかに、感染者数は徐々に減る傾向にありますが、一方で、死亡者数はこれまでにないペースで増えています。
労働省のまとめでは、1月5日から2月8日までのおよそ1か月で亡くなった817人のうち、90代以上が34.4%、80代が36.6%、70代が19.6%、60代が4.0%で、60代以上の死亡者がじつに94.6%を占めています。
以上の事実から、現在の高止まり状態を打開するには、まず感染を広めている元凶とされる若年層の感染を抑え込むことが肝要でしょう。
欧米では1月ごろ、感染のピークを迎え、以後減少に転じたため、規制を緩和してきました。ワクチンの普及と免疫力がついたためと判断していましたが、3月に入って再び増加傾向に転じています。
ただ死者や重症者は増えていないため、欧米各国はマスク着用やワクチン接種証明の提示義務を緩めるなど、新型コロナとの共生路線は変えていません。
英イングランドでは、規制を続けることによる経済や社会への負荷が大きいとして、2月24日から感染しても隔離をする義務が撤廃されました。
感染者増加の原因は、むしろ感染力の強いオミクロン型「BA.2」が増えてきたのではと囁かれているのです。
ステルスオミクロン「BA.2」の脅威
ご承知のように現在我が国では、オミクロン株を中心に新型コロナが蔓延しています。
このうち、最近、感染力の強いオミクロン変異株が目立ってきました。従来のオミクロン株を「BA.1」と呼ぶのに対して「BA.2」と呼んでいます。
オミクロン株を捉える「SGFT法」というレーダーをすり抜ける戦闘機のイメージから、「ステルスオミクロン」とも呼ばれています。
「BA.2」は昨年11月、フィリピンで確認されて以来、我が国でも猛烈な勢いで増え続けており、4月上旬には「BA.1」を圧倒し、全体の70%に達すると国立感染症研究所では試算しています。
京都大学の調査では、「BA.2」の感染力は「BA.1」よりも18%~26%高いということです。
またデンマークでの調査でも、同居家族への「BA.2」の2次感染率は39%(BA.1株は29%)と、明らかに感染力の強いことが示されています。
一方で、入院率などの重症化率は「BA.1」とあまり差は見られませんでした。
一方、東京医科歯科大学の武内寛明准教授は、日本国内でオミクロン株に感染した40人を分析した結果として、7割以上が「BA.1.1」という、「BA.1」の変異型(集計上は「BA.1」に含まれる)であったと発表しました。
彼によれば、我が国のように「BA.1.1」が主流の国では、「BA.2」への置き換わりに時間のかかる傾向があり、今後「BA.2」へ置き換わることで、もう一度、感染が増加に転じるのではないかと危惧しているそうです。
ステルスオミクロン「BA.2」に効く薬とは?
新型コロナの主役になろうとしているステルスオミクロン「BA.2」の治療薬には、ウイルスが増えるのを抑える軽症者向けの「モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)」、「ニルマトレルビル・リトナビル(商品名パキロビッドパック)」、「レムデシビル(商品名ベクルリー)」と、炎症を抑える重症者向けの「トシリズマブ(商品名アクテムラ)」が認定されています。
新型コロナでは、時期によって治療薬が異なります。一般的に軽症で症状が出たばかりの人は「ウイルスの増殖を抑える薬」が、症状が出て1週間以上経ち、熱や咳がひどい場合は「炎症を抑える薬」が使われます。
つまり、発熱や咳など症状が出て7日ほどは、ウイルスの増殖期にあたり、「ウイルスの増殖を抑える薬」が主に使われます。
症状が出て7日前後からは、免疫による過剰な炎症反応(肺炎など)が主体の時期になります。この時期は「炎症を抑える薬」が中心になります。
とくに、感染したばかりで軽い咳程度の時期(軽症)には、薬がよく効き、重症化を防ぐことができます。重症化が懸念される高齢者、癌治療中、免疫不全、肺・腎臓・心臓病、糖尿病、妊娠後期のかたなどは、この時期に治療を始めるかどうかが鍵になります。
以下に、その薬剤について解説します。
モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)
18歳以上の軽症者が対象の経口治療薬です。症状が出て5日以内に薬を飲めば(4カプセルを1日2回5日間服用)、入院と死亡のリスクを30%以上、減らすことができるといわれます。
ただし、妊娠中、妊娠の可能性があるかたは、飲むことが出来ません。副反応は、下痢、悪心、めまい、頭痛が1~3%程度みられています。
ニルマトレルビル・リトナビル(商品名パキロビッドパック)
モルヌピラビルと同様、重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患をもった軽症~中等症の方に用いられます。12歳以上で体重40キロ以上のかたが対象です。
発症後5日以内に薬を飲めば(3錠を1日2回5日間服用)、入院または死亡のリスクが88%も低下するといわれます。副反応は、味覚不全、下痢、肝機能障害がわずかにみられる程度です。
最大の欠点は、併用できない、あるいは併用しないほうがいい薬が多いことで、担当医に相談のうえ決める必要があります。
レムデシビル(商品名ベクルリー)
もともと中等症以上の新型コロナに使用していた注射薬です。
しかし、発症7日以内の軽症のかたでも、1日1回、3日間点滴すると、入院や死亡を87%減少させた臨床試験が報告された結果、欧米では、酸素投与を必要としない重症化リスクのある方への適応拡大が承認されました。
これをうけ厚労省は、保険適用外としながらも、軽症者に用いることが推奨されるとしています。
ただし、ときに急性腎障害や肝機能障害が出現するので、定期的な検査が必要となります。
塩野義製コロナ治療薬「S-217622」
北海道大学と塩野義製薬の共同研究から生まれた、我が国初の新型コロナ治療薬です。新型コロナが増殖するのに必要な酵素(3CLプロテアーゼ)を働けなくする結果、ウイルスの増殖を阻止しようとするものです。
症状が出て5日以内の軽症者が適応となります。1日1回5日間の服用です。現在は未認可ですが、近日中に臨床試験の結果が出次第、認可がおりる予定となっています。
トシリズマブ(商品名アクテムラ)
2022年1月21日、トシリズマブが新型コロナによる炎症を抑える「抗炎症治療薬」として承認されました。もともとは、大阪大学と中外製薬が共同開発した慢性関節リウマチに用いられている薬剤です。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、アクテムラの投与により、重症患者の死亡リスクが24%減少し、入院期間も10日間短縮できると発表しました。
まず報告した英国、ついで米国で緊急使用許可が出、世界保健機構WHOも1万人余を対象にした臨床試験の結果をみて、高額医療が難点としながらも、推奨することになりました。
これをうけ我が国でも、今年1月から、酸素投与を要する重症患者に限って、ステロイド薬との併用治療を承認しました。
子供はワクチンを接種すべきか?
今度の第6波で特に目を引くのが、若年感染者の急増です。年代別にみますと19歳以下が31%と最も多く、60歳以上の高齢者も13%とかなり増えています。10歳未満の子供たちだけでも、この1週間で7万3千人(感染者全体の20%)が感染している状況です。
かつてない感染力の強さを示していますが、子供たちにとってマスク着用や3密を避けるのは難しいだけに、幼稚園や小学校での感染対策に頭を痛めているところです。
さらに、子供たちから同居する高齢者に感染するケースが後を絶たず、うつされた高齢者が重症化しやすいため、大きな社会問題となっています。
一方で、オミクロン株は子供に感染しても重症化しにくいから、様子を見ようという楽観論を耳にします。しかし実際に感染者をみていると、熱による痙攣をおこしたり、喉頭に炎症をおこしやすく、このため呼吸がしづらく、しばしば犬の鳴き声のような咳をします。またときには呼吸困難になって、集中治療(ICU)が必要になるケースもあります。
このため、政府は5歳から11歳までの子供たちに対するワクチン接種を今月からスタートしました。現時点では保護者に対して、子どもに接種を受けさせるよう努めなければならない「努力義務」とはしていません。
すでに5歳から11歳の子供たちへ、ワクチン2回接種(ファイザー社製)をしているアメリカでは、オミクロン株が広がった時期に感染を防ぐ効果は、31%と予想より低値でした。一方、救急受診、救急治療など重症化を防ぐ効果は51%と、十分評価できる結果でした。
ワクチンの副反応については、注射部位の痛みが70%、疲労が35%、頭痛が25%、筋肉痛が10%、悪寒、発熱、関節痛が5%程度といわれています。もっとも懸念されている心筋炎も100万回の接種で4回見られたにすぎず、いずれも1週間以内に回復しているようです。
以上の事実から、少なくとも、喘息など慢性呼吸器疾患、弁膜症など先天性心疾患、白血病など血液疾患、そのほか重症化リスクの高い病気にかかっている子供たちは、予防的に接種をうけておくべきとおもわれます。
また、健康な子どもでも、家族に高齢者や基礎疾患のある人、妊婦がいる場合は、家庭内感染のリスクを減らす意味からも接種をしておくべきでしょう。
専門家の間では、保育園、幼稚園、小学校などで、子供たちがお互い感染を広げないためにも接種を勧めたいという意見が多いようです。たしかにこの感染ルートを断たない限り、コロナの鎮火は難しいように思われます。
一方、保護者のかたは、子供に感染させたくないという気持ちと、副反応や後遺症を恐れる気持ちが錯綜して、なかなか接種を決断しきれないようです。
以上の情報をもとに、各家庭事情や子供たちの健康状態を考え、かかりつけ医師にも相談し、本人の希望も聞いて、接種するかどうかを決めていただきたいと思います。
4回目ワクチンは続けるべきか?
遅ればせながら我が国は、国を挙げて3回目ワクチン接種に取り組んでいるところです。
すでに先行しているイギリス保健当局のデータをみると、2回目接種から半年後、オミクロンに対する発症予防効果は、「BA.1」で9%、「BA.2」では13%に低下していたそうです。
しかし3回目の追加接種から2週間後には、発症予防効果は「BA.1」で63%、「BA.2」では70%と著しく回復していました。
問題となっている「BA.2」にも、現行のワクチンが十分効果を発揮しているものと考えられます。
ところで先日、イスラエルでの医療従事者を対象にした4回目のワクチン摂取報告がありました。
それによると、ウイルスを拒絶する中和抗体は、接種3回目よりは4回目の方が高くなっていますが、それほど大きな変化とは言えません。
すなわち、ワクチン接種後のオミクロン感染者は、3回接種で25%だったのが、4回接種ではファイザー接種群18.3%、モデルナ接種群20.7%と、あまり変わり映えしない結果に終わりました。
接種部位の腫れや痛み、だるさ、筋肉痛、頭痛、発熱など副反応も、3回目までの副反応と大きな違いは見られませんでした。
一方3月15日、ファイザー社は、3回目の接種から4ヶ月後以降に4回目のワクチン接種をした高齢者では、4回目を接種していない高齢者と比較して感染者が半分、重症化した人が4分の1であったと発表しました。
これは先述のイスラエルでの治験よりもかなりいい成績で、高齢者にはいいニュースと言えるでしょう。
当然ですが、時間ともに抗体価は下がり、特に高齢者や基礎疾患をもったかたでは重症化を防ぐ効果も下がってきますから、4回目接種をうける意義は十分あるといえます。
一方で、3回目接種で重症化リスクが下がった多くの方々にとっては、急いで4回目の接種を行う緊急性はないように思われます。
しばらく感染状況の推移をみたうえで、判断すればいいのではないでしょうか。