なぜ新型コロナ“第6波” は下がりきらないのか?
ゴールデンウイーク明け、東京の新型コロナ感染者数は1万人超と予想されましたが、危惧されたほどには増えませんでした。1か月たった今日の感染者数は1600人と、緩やかな減少傾向にありますが、目を転じると、地方ではあまり減少しているという印象はなく、全国的には下げ止まった感があります。
ここに来て感染者が減らない原因は、ひとつにはワクチン接種して時間が経ったため、感染予防効果が落ちてきたこと、ひとつにはオミクロン株「BA.2」の感染力がつよいため、ワクチン未接種が多い若年者に感染が広がっていることにあります。
とくに保育園、幼稚園、小学校など自己管理ができにくい世代だけに、3蜜やマスク着用が不完全で、子供から子供への感染が止まらないのです。
しかも悪いことに、若年者は感染しても症状のない人が多く、本人の知らない間に周りの人に感染を広めている可能性があります。彼らは自宅にウイルスを持ち帰り、免疫力の落ちた高齢者に感染させている可能性もあるのです。
それなら、若年者全員にワクチンを義務付ければいいという声もありますが、これもまた問題です。
ワクチンは異物を体の中に入れ、それに対する抗体をつくるというものです。高齢になれば、異物が入ってきても反応が鈍く、副反応もおこりにくいのですが、若年者は逆に刺激に強く反応するため、熱や頭痛など様々な副反応が出やすくなるのです。
しかも年代別にみると、10歳以下に一番感染者が多いにもかかわらず、10歳未満の死亡者はゼロなのです。そうするとご家族としては、副反応の危険を冒してまでワクチンを打たせる気にはならないのが当然でしょう。
結局、それぞれの家庭事情を勘案して、各自で、接種の実施を決めていただくことになりました。
もうひとつ、今まで新型コロナは主として都市の人口密集地で広がってきましたが、感染力の強いオミクロン株になって以来、人の密集してない地方へも広がっていきました。
密集度の低い地方では、都会にくらべ免疫を持たない人の割合が多いため、感染は広がりやすく、これが容易に感染の収束しない原因のひとつともいわれているのです。
オミクロン株「BA.2」から「BA.4」,「BA.5」へ
2021年11月、南アフリカで報告されたオミクロン株は、その後、急速に世界へ拡大し、2022年に入り、国内ではオミクロン株「BA.1」が、瞬く間に「BA.2」に置き換わってきました。
と同時に、2022年1月に「BA.4」、2月に「BA.5」という2つの変異株があらわれ、以後、「BA.4」は南アフリカ、オーストリア、イギリス、アメリカ、「BA.5」は南アフリカ、ポルトガル、ドイツ、イギリスなどを中心に広がりをみせています。
我が国でも2022年4月以降、空港検疫で少数ながら「BA.4」、「BA.5」がみつかるようになりました。いずれも南アフリカにおいて「BA.2」よりも増加傾向が強いため、「BA.2」よりさらに感染力が強いのではと懸念されています。
また、最近、アメリカ東海岸では、「BA.2」の亜系「BA.2.12.1」という変異株も増えてきています。
このように、オミクロン株は目まぐるしい変異を繰り返していますが、もともとウイルスは遺伝子の突然変異を繰り返し、姿を変えながら新たな環境に適応しなければ、生き延びることができないのです。
こうして何度も突然変異を繰り返していると、ときには我々人間にとって迷惑な、致死率の高いウイルスに変異する可能性もあることを、知っておく必要があるでしょう。
ハイブリット型ウイルス「XE」の登場
ところで、いままでの遺伝子変異とは別に、イギリスで2つの異なるオミクロン株が感染者の体内で組み換えられた、ハイブリット型のウイルスが発見され、「XE」と名付けられました。
日本でも2022年、3月、空港検疫で初の感染者が確認されました。
「XE」はオミクロンの亜系統「BA.1」と、より感染力が高い「BA.2」の組み換わったものです。つまり、2種類の「BA.1」と「BA.2」の変異ウイルスが、偶然同じ人に感染し、同じ細胞に感染したのち、同じRNA部分が取れて入れ替わるという、かなり稀な偶然によって生まれたものです。
WHOが「これまでで最も感染力が強い恐れがある」と警告したため、世界に緊張が走りました。最初にみつかったイギリスの保健当局によれば、英国内では、感染が増加する速度は「XE」のほうが「BA.2」よりも、さらに12.6%高いということですが、現在のところ重症化する例はないようだとのことです。
このほか2021年12月以降、同じ遺伝子組み換え例として、「XE」ほどの感染力はなさそうですが、「XD」(デルタクロン株)というのも確認されています。
オミクロンデルタ株と、オミクロン「BA.1」の遺伝子が組み換えられたウイルスで、フランス、デンマークなどでみつかりましたが、現在あまり広がってはいないようです。
若年層を悩ませる新型コロナ後遺症
オミクロン株に感染したあとの傾向として、感染が治っても後遺症に悩むひとが増えています。特に若年層では軽症者が多いにもかかわらず、後遺症が長引いて、生活、仕事が十分できないひとが目立っているのです。
とくに3人に1人が、全身の脱力感や倦怠感に悩まされています。また、微熱や咳が続いたり、息苦しさ、集中力低下、記憶力低下、睡眠障害なども10%前後みられています。
後遺症の原因については、感染が治癒したあとも、患者さんの腸のなかにウイルスの遺伝物質や蛋白の破片が残っており、下痢や腹痛を起こしているのではという論文が海外から出ています。また、感染のため体内で過剰につくられた抗体が、患者さん自身の体を異物とみなして攻撃するという自己免疫疾患に似た働きが起こっているのでは、とも言われています。
今のところ、根本的な治療法は確立されていませんが、症状がとれなければ、一度、内科の感染症専門医にご相談ください。
なお、ワクチン接種により、たとえ罹っても後遺症の発生は半減するという報告もあるので、できることならワクチンを打っておくべきでしょう。
今後目指すべき方向
第6波はいまだ収束の兆しがみえませんが、政府は落ち込んだ経済を回復させるため、ウイズコロナに舵を切ったものと思われます。インバウンドの規制緩和、マスク着用の規制緩和、大人数での会食、大規模イベントの緩和政策など、国民の側がたじろぐほどの転換です。
ご承知のように、感染を遷延させているのは、ワクチンを打っていない若年層が中心です。しかし先述した理由から、ワクチン接種は必ずしも強要されるものではありません。それぞれの家庭事情(基礎疾患患者や妊婦、高齢者と同居か否かなど)を勘案したうえで、選択していただければと思います。
同時に、若年者対策としては、家庭内はもちろん幼稚園や学校でも、3密を避けるとともに換気を頻繁におこない、子供たちに適宜マスクの着脱とこまめな手洗いを、励行させていただきたいと思います。
なお政府は熱中症を防ぐ意味からも、距離を保てれば室外でのマスク着用は不要、室内でも声を出さなければマスク不要との見解を明らかにしました。
そして、運悪くコロナ患者が発生した場合には、学校では時差登校や分散登校、オンライン学習を組み合わせた学習形態を考慮するよう勧告がありました。
一方、全国的にみて死亡者は、ほとんど高年齢層に集中しています。
現在3回目のワクチン接種状況は、5月18日時点で、高齢者(65歳以上)で89%、全体では57%となっています。
重症化リスクの高い基礎疾患を有する方や高齢者およびそのご家族は、ハイリスクという認識を新たにし、今後とも定期的にワクチンによる抗体獲得を目指していただければと思います。