出産時の分娩で発生する脳性麻痺については、原因がはっきりせず医療側の過失かどうか判断困難なケースが多く、訴訟が長期にわたるため、補償されるにしても随分時間がかかるという弊害が目立っていました。
そこで、医療事故で障害を負った場合、医療側に過失があるかどうかの議論はさておき、まず患者に補償金が支払われる無過失補償制度の構想が生まれました。すでに北欧やニュージーランドで実施されている社会補償制度を参考にしたものです。
ただこれを実施するには膨大な財源が必要となり、費用負担を医療機関と国とでどう調整するか、補償範囲をどこまでとするか、医療事故調査制度をいかにするかなどの問題を解決しなければなりません。
またそれ以前の問題として、過失か否かを問わず保障するということになると、患者側にはとりあえず訴えてみようという安易な行為が行われそうですし、医療側には、いい加減な医療行為が蔓延するのではという懸念が出てきます。
ですから、とりあえず保障はするにしても、過失なのか無過失なのかを調査しなくてもよいというわけにはいきません。
以上の理由から、今ただちに無過失補償制度を開始するというわけにもいかないのです。
産科医療補償制度
そこでとりあえず喫緊の問題を解決する目的で、2009年1月から、産科医療補償制度が発足しました。
普通の妊娠・分娩にもかかわらず、発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償するのが目的です。それと並行して病因の分析を行い、再発防止を図り、産科医療のレベルアップを図ろうという考えです。
今後の方針は、この制度をさらに拡充し、将来的にあらゆる医療分野における無過失補償制度を確立したいとしています。