妊娠しても産婦人科に行かず、かかりつけ医を持たない人が、陣痛が来て初めて病院に運ばれる。これを産科医の間では強引な出産依頼という皮肉をこめて、飛び込み出産と呼んでいます。
一方、世間ではこの人たちを出産難民と呼んで、病院が陣痛の始まった妊婦を拒絶してたらい回しにするのに批判的です。
産科医に言わせると、出産とは本来危険なものであるという認識が足りないためにこのような事態がおこってしまうといいます。
つまり、正確な妊娠週数が分からず、妊婦がなにか病気をもっていないかどうか、胎児が健康な発育状態にあるか、逆子になってないか、母児ともに感染症にかかってないかなどの情報がまったくないまま、いきなり分娩に立ち会うのは危険すぎるというわけです。
もし、結核、B型・C型肝炎、HIVなどの感染症があると、他の母子に移す可能性があり、院内感染が広がる危険があります。また妊婦に妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や切迫早産、前置胎盤などがあれば危険な出産となるため、分娩時の備えが大きく変わるのです。
飛び込み出産の危険性
事実飛び込み出産では、新生児のうち低出生体重児(2500グラム未満)が多く、周産期死亡率も全国平均を大幅に上回っています。
いきなり出産といわれても、危険極まりない事情が分かって頂けるでしょう。
また、飛び込み出産をする妊婦は一度も健診を受けていないことが多く、出産は病気でないから健診は不要だと考えている場合や、費用がない、未成年でどうしてよいか分からなかった、不法滞在者のため受診できなかったなどが理由として挙げられます。
実際、飛び込み出産のケースでは、過半数が出産後未払いのまま、退院してしまっています。
さらには新生児を置いたまま消えてしまうケースや、モンスター・ペイシエントとなって、病院側の対応が悪いから支払いできないと居直るケースなど悪質化が目立ちます。
病院側は人道上、お金を支払えないからといって診療を拒否することはできず、 泣き寝入りする場合が少なくないのです。
妊婦側にも問題が少なくないことを知ったうえで、社会全体の問題として議論すべきでしょう。