COVID 19

新型コロナウイルス

(8)ワクチンは いつうけられるか

1.ワクチン争奪戦の現況

世界保健機関(WHO)によると、2020年8月現在、新型コロナウイルス(新型コロナと省略)のワクチン候補は29種類に絞られているそうです。

しかし、新型コロナはウイルス量が少ないため体内で抗体ができにくい弱点があり、ワクチン開発に時間がかかるといいます。

8月11日、ロシア保健省は世界初のコロナワクチン「スプートニクV」を承認したと発表しましたが、世界からは臨床試験が終了していないとして、安全性や有効性に疑問の声が上がっています。

現在最も先行しているとされるオックスフォード大とアストラゼネカのワクチンには、欧米諸国が巨額の投資と引き換えに優先提供を確約し、激しい争奪戦を繰り広げています。日本政府も1億2千万回分の供給を受けることで8月に基本合意しました。接種回数は1~2回(2回接種なら6千万人分)です。開発に成功すれば、来年1~3月に3千万回分が供給されるそうです。

さらに米英、EU諸国は米国のモルディナ、ファイザー、ドイツのキュアバック、フランスのサノフィなどとも供給契約し、自国優先の獲得競争に邁進している状況です。

日本政府は7月末に、米ファイザー社から6千万人分の供給を受けることで基本合意し、開発に成功すれば、来年6月末までに供給されるということです。

これに対し、ワクチンを一括購入し世界中に公平な配分を計画する国際機関では、世界全体で流行が収まらない限りパンデミックが終息することはなく、他国のことなど構っていられないとする各国の現状を眺めながら、コロナの終息はおそらく1~2年遅れるだろうと嘆息しています。

2.新型コロナワクチンは安全か? 

パンデミックのため、新型コロナのワクチン開発は異例の速さで進められています。大統領選を控えた米国ではとくにそれが顕著です。

米国政府は5月、先行するモデルナ社のワクチン開発加速計画に数十億ドルを投資すると発表しました。

しかし本来ワクチン開発は、じっくりゆっくりが基本で、一気に導入すると予想しない副作用のおこる危険があり、拙速に進めないことが肝要とされています。

ところで、ワクチンの臨床試験は、3段階に分けられます。

第1相試験では、50人ほどを対象に、ワクチンの安全性を評価します。

第2相試験では、もう少し被験者を増やしてワクチンの有効率を確かめます。そして接種後採血し、病原体を中和させる抗体が作られているかどうかを調べます。

第3相試験は数千人を対象に、有効性と安全性を確認します。多くは、本当のワクチンとプラセボ(偽のワクチン)を接種して、両者の間で効果や副作用に違いが出ないかを調べます。

しかしワクチンの効果が明らかになるには、一般に接種されてから1年程度の時間が必要なこと、しかも人種間の差があるため、海外のワクチンは国内でも臨床試験をして効果を確かめる必要があり、開発を急ぐあまり手順を踏まずに接種をすれば人体実験になってしまうと、専門家は警告を発しています。

また、コロナワクチンの接種によって「抗体依存性感染増強(ADE)」と呼ばれる現象のおこる懸念があります。

これは、本来ウイルスから体を守るはずの抗体が、逆に免疫細胞へウイルスを感染させてしまう現象です。その結果、ウイルスに感染した免疫細胞が暴走して症状を悪化させてしまうのです。

事実、コロナウイルスが原因となるSARSやMERSのワクチン研究で、この現象が起こったといわれており、懸念がぬぐえないのです。

3.コロナワクチンは本当に効くのか?

よく知られているように、コロナウイルスはDNA(2本鎖)でなくRNA(1本鎖)のため、突然変異を起こしやすい特徴があります。つまり短期間で変異がおこるため、時間をかけてワクチンを完成しても、すでに効き目が落ちているのではという懸念の声がないわけではありません。

しかし、十分な臨床試験をへて効果を確かめているのですから、ワクチンが効かないのではという心配はしなくていいでしょう。

問題は最も有効な投与法はどうかという点にあります。

開発が始まってからまだ1年経っていない現状で、ワクチンの効果がどのくらい持続できるかを検証するのは到底無理で、今後数年を要すると思われます。

ただ、中国、ドイツ、英国などでの予備的な研究では、新型コロナに感染した場合、抗体はできるものの急速に衰えていき、数カ月で免疫はほとんどなくなるようだという悲観的な結果が報告されています。

さらに、回復した患者の血中の中和抗体価が短期間のうちに減少したという報告も相次いでおり、ワクチンを定期的に投与し、抗体量を確保する必要があるのではと考えられます。たとえワクチンで抗体ができたとしても、抗体量が十分なければ、結局効かないことと変わりないことになるからです。

そこで、現在検討されているのは、異なる種類のワクチンを組み合わせる方法や、ブースター注射によって追加免疫を獲得しようとする方法です。ブースターとは予防接種によってできた免疫が時間とともにだんだん弱くなっても、再度ワクチンを追加することで、さらに免疫機能を高めようというものです。

4.コロナワクチンの問題点

2020年6月30日に、ワクチンを承認する米食品医薬品局(FDA)は、臨床試験における有効率の最低ラインを50%とするという指針を発表しました。一部の研究者は、集団免疫を獲得するためには、50%しか効かないワクチンではとても無理だという声明を発しています。

一方、別の専門家は、完璧なワクチンはないのだからこれで由とし、ソーシャルディスタンスの確保やマスク着用などとの組み合わせにより、十分ウイルスの拡大を抑止できるとしています。

ちなみにポリオの不活化ワクチンの予防効果はほぼ100%、麻疹(ましん)ワクチンも、1回の接種でおよそ96%の予防効果が得られるといわれています。

しかし、インフルエンザウイルスのワクチンは40~60%抑えるだけの効果しかなくても、実用化されており、WHOはコロナワクチンの場合、70%に効果を見込めれば理想的とし、米国立アレルギー感染症研究所所長も、70~75%で良しとすると発言しています。

ここで大切なことは、有効率50%でも由としてしまうと、途端に研究意欲が萎えてしまい、より優れたワクチンの開発は停止してしまいます。集団免疫獲得のため、さらに有効なワクチンの開発を続けていただきたいと思います。

ところで、CNNが5月に米国で実施した世論調査では、ワクチンが低価格で受けられるようになれば、約70%が接種を受けると回答したそうです。

ワクチンの最終目的は集団免疫の獲得にあり、各国とも人口の60~70%が集団免疫をもつことを目指しています。したがって、少しでも有効率の高いワクチンの登場が待ち望まれているのです。