麹(こうじ)とは、米や麦、大豆等にコウジカビ(一群の糸状菌)を混ぜて発酵させたものをいいます。
発酵はコウジカビのような微生物が繁殖して、もとの成分が変化することです。腐敗と何ら変わりないようですが、われわれ人間にとって有用である場合に限り、発酵と呼びます。高温多湿な東アジア地域だけにみられる特殊な製法です。
以下、その麹を用いた食品についてお話します。
醤(ひしお)は、肉、魚、穀物などを麹と食塩で発酵させたもので、通常は液状の調味料をいいます。
その歴史は紀元前の中国に見られ、奈良時代、我が国に製法がもたらされたようです。
原料が肉の場合は肉醤(ししびしお)といって干し肉の塩漬け(ジャーキー)、魚は魚醤(うおびしお)といって魚の塩漬けやイカの塩辛、穀物の場合は穀醤(こくびしお)と呼び、大豆を原料にしたものが味噌、醤油です。
大豆に麹や塩を混ぜあわせ、発酵させると、大豆のタンパク質が分解され、旨みの元であるアミノ酸が多量に遊離して味噌が出来上がります。
鎌倉時代、僧侶・覚心が中国(宋)から径山寺味噌の製法を伝え、金山寺味噌が生まれました。この味噌の製造過程で生じた樽底の沈殿液や桶の上澄みが美味であったため、調味料として使用するようになりました。これが醤油の起源といわれています。
江戸時代、千葉の野田や銚子で、こいくち醤油がつくられました。大豆と小麦を半々にブレンドして造り、塩分は少なめです。
現在、シェアーの9割を占めています。その後、兵庫で原料の麦に少量の酒を混ぜたうすくち醤油が生まれました。汁物、煮物、うどんつゆなどに使用されますが、塩分が多く、賞味期限も短くなります。
戦国時代、味噌は遠征する兵士の重要な保存食でした。調味料として用いられるようになったのは江戸時代以降です。
赤味噌は米や豆を1年以上熟成させるため褐色調となり、コクがありますが、塩分の多いのが欠点です。
白味噌は麦を用い、熟成期間が短いので色が白く、麹の糖分により甘味が強く、塩分は少ない特徴があります。
食酢は酢酸を3~5%含んだ調味料で、米、大麦、りんご、ブドウなどを原料に麹を用いて酒を醸造し、そこへ酢酸菌を加え、発酵(酢酸発酵)させて作ります。
漬物は、野菜(ときに魚や動物)を食塩、酢、糠味噌、醤油、酒粕、油脂などと共に漬け込んで熟成させた保存食品です。
乳酸菌による発酵を伴う漬物は保存性がよくなり、麹などを添加すると風味がよくなります。発酵により強い香りを発するため、「香の物」、「お新香」とも呼ばれます。
ついで、日本酒のはなしにうつります。
米麹(こめこうじ)は、蒸した白米に麹菌の胞子をうえつけて発酵させたもので、これにより白米のでんぷんはブドウ糖に変わります。
これを水に溶かし、酵母を植えて,酒母(しゅぼ、もと)をつくります。
できあがった酒母に麹、蒸し米、水を一時に仕込まず3段階に分けて原料を増量しながら仕込んでいきます(三段仕込み)。
麹によるでんぷんの発酵と酵母によるブドウ糖のアルコール発酵が並行しておこなわれます。こうして醪(モロミ)ができあがります。
このモロミを搾ると清酒ができあがります。残ったものが酒粕(さけかす)です。
このように穀類や果実など糖質を含んだ原料を発酵させて作るのが醸造酒です。
日本酒はモロミを絞った醸造酒ですが、モロミを沸騰させ、蒸気を冷やして蒸留したものが蒸留酒・焼酎です。
焼酎造りはまず蒸米に焼酎用の麹菌を植えつけて繁殖させます。ついで麹に水と酵母を加えて混ぜあわせ、酵母を大量に増やし、モロミが腐るのを防ぎます。
これに芋、麦、米、黒糖などを加え、酵母によるアルコール発酵を促します。
アルコール発酵が終わったモロミを蒸留機で蒸留すると焼酎ができあがります。
仕込む原料が芋であれば芋焼酎、麦なら麦焼酎、米であれば米焼酎となります。ただこのままでは臭味が強いので、まろやな風味を出すため、一定期間、貯蔵・熟成します。
このように、麹は味噌、醤油、食酢、日本酒、焼酎など、その応用範囲は多岐にわたっています。
これに対して、ビールやワインは麹による糖化(ブドウ糖にする)はありません。
ビール造りはまず麦芽(麦を水にひたして少し発芽させたあと乾燥したもの)を湯に入れて糖化し、ろ過した麦汁にホップを入れて煮沸します。これを冷まして酵母を入れると発酵してビールができあがります。
またブドウはすでにブドウ糖の状態ですから、酵母によりアルコール発酵すればワインができあがります。
酸味が強ければ、アルコール発酵の後、乳酸菌によってリンゴ酸を乳酸に変える(乳酸発酵)場合もあります。