無形文化遺産、和食
わが国の和食が無形文化遺産に認定されたのは、高温多湿な風土に根付く発酵食品文化が高く評価されたことにあるといえましょう。
発酵とは微生物(酵母、酵素、細菌)によって食物中のデンプンや蛋白質が分解され、健康によい成分が作り出されることをいいます。
発酵食品は冷蔵庫のない時代から保存食として、また風味が増し栄養価が高くなるほか、食品を柔らかくする目的でしばしば用いられてきました。
発酵に役立つ微生物
140万種類いるといわれている微生物の中で、発酵に役立つ微生物は乳酸菌・酢酸菌・酵母菌・納豆菌(枯草菌)・麹菌・酪酸菌の6種類といわれてます。
代表的な発酵食品は野菜では漬け物やキムチ、大豆では味噌や醤油・納豆、魚介類では塩辛・かつお節、穀類ではパンやビール・日本酒、お茶ではウーロン茶・紅茶、乳製品ではヨーグルト・チーズなどに用いられ、文字通り発酵食品大国の名に恥じません。
漬け物は野菜や果物、肉、魚を、塩・ぬか・味噌・醤油・お酢・香辛料などに漬けて発酵させたものです。ぬか漬けを作る際のぬか床は、精米で除かれる玄米の表皮・ぬか層・胚芽で、発酵によりビタミンB ・Eなどが急増します。またぬか漬けの酪酸菌により免疫細胞が活性化され、大腸の炎症を防御しています。
味噌は大豆・米、麦を麹菌、酵母、乳酸菌で発酵したもの。発酵の過程で大豆のたんぱく質がアミノ酸やペプチドに変わり、でんぷんは麹菌中のアミラーゼによって甘味成分のブドウ糖に変わります。味噌汁を50度以上に熱すると、麹菌・酵母・乳酸菌が死滅し、味噌の蛋白質が変性し味も落ちてしまうため、注意が必要です。
納豆は大豆を納豆菌(枯草菌)で発酵させたものです。必須アミノ酸群をバランス良く含んでおり、ビタミンB2・E・Kなどのビタミンや、カリウム・亜鉛・カルシウム・鉄などのミネラル、食物繊維など栄養素を豊富に含みます。納豆菌がつくる酵素ナットウキナーゼは血液を固まりにくくする効果があり、脳卒中や心筋梗塞、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立ちます。
醤油は大豆と小麦に麹菌を繁殖させてもろみをつくり、酵母菌と乳酸菌の働きにより発酵させたものです。発酵により大豆タンパクが20種類のアミノ酸に分解され、旨味のもととなるペプチドがつくられます。塩分を多く含み、抗酸化作用や殺菌効果、抗アレルギー効果や免疫機能を増強します。
酢は蒸した米に麹菌と酵母を加えてお酒を造り、これに「純米酢」と酢酸菌を加え酢酸発酵したものです。体内でクエン酸に変わる事により、クエン酸回路が活性化してATPを産生し、疲労によるダメージを回復します。しかし希釈せずにそのまま飲むと胃がただれ、腹痛や下痢をひきおこします。
日本酒は米を麹菌と清酒酵母で発酵したもの、ビールは大麦の麦芽をビール酵母で発酵したもの、そしてワインはブドウをワイン酵母で発酵したものです。ワインには高い抗酸化作用のあることが知られており、適量の赤ワインを飲むと、認知症やアルツハイマー病の予防にもなるといわれています。
ヨーグルトはミルクをビフィズス菌、ガセリ菌、ブルガリクス菌、アシドフィルス菌、サーモフィルス菌などの乳酸菌で発酵させたものです。ヨーグルトに含まれる蛋白質は乳酸菌によってペプチドまで分解されており、消化吸収が良くなっています。免疫力を高め便秘や下痢の改善、大腸ガンの予防、高血圧やコレステロールを下げる働きがあります。またカルシウムは牛乳より多く、骨粗しょう症の予防になります。
チーズはミルクに凝乳酵素を加えて凝固させ、乳酸菌で発酵させたもので、牛乳の約12倍のカルシウムがあり、牛乳の約5倍のビタミンB2があります。このため、骨粗しょう症の予防や皮膚や粘膜の保護作用に優れています。また発酵によってタンパク質がアミノ酸に分解されているため、体内への吸収がスムースとなっています。
発酵食品は発酵し続けているかぎり腐敗菌が入る余地がなく、腐ることはありません。それにもかかわらず、店頭に並ぶ発酵食品に賞味期限があるのは、衛生上問題が起きないよう加熱殺菌されたため、発酵しなくなっているからです。