ひとの手足や髪の毛からその人とそっくりの子供を作り出すなどどいったら、まるで孫悟空だと一笑に付されるでしょう。
ところが、今の遺伝子技術を駆使すればそれも可能な世の中になっているのです。
今から10年前に、イギリスの研究者が羊のからだの細胞から、その羊と瓜二つの子供を作り出すことに成功したのです。
哺乳類では世界で初めての画期的な事件でした。
ついで牛・豚・マウスでも成功が確認されました。
こうなると理論的にはひとでも同じことが可能となったわけで、もはやそれを止めているのは我々の倫理観だけという状況なのです。
これを体細胞クローン技術とよんでいます。
クローン技術の特徴は、同じ遺伝的特徴を持つ動物をたくさん作り出すことができる点にあります。
つまり、人為的に選んだ遺伝的特徴を持つ動物の大量生産などが可能になります。
例えば、高級肉質の牛や乳分泌の多い牛の大量生産や、インスリンなどの医薬品を乳のなかに分泌する羊が大量生産できる可能性があります。
しかしこの体細胞クローン技術を人間に用いるとなると大問題です。
クローン人間と倫理
血液検査で取られた血液から自分と同じ人間が簡単にもう一人作られるなどということになり、コピー人間(クローン人間)が巷に溢れてしまいかねません。
こうなるとクローンで生み出された人たちとの間に差別社会の生じる可能性がでてきます。
つまり非常に優秀な能力をもった人たちが人為的につくられると、特権階級が生まれる可能性や、逆にコピー人間として、一般人より低く見下され、いじめ社会の生まれる可能性があります。
当面する問題としては、不妊治療に失敗した夫婦がこの技術をつかって自分のからだの細胞から子供をつくろうとする可能性がでてきます。
実子にはちがいありませんが、生まれてくる子が安全に成長するかどうかは疑問があるのです。
なぜなら、動物実験で必ずしも健康な成長を遂げているとはいえず、クローン技術が後の世代に与える影響もまだ十分分かっていないのです。
また、移植用臓器をどうしても手に入れたいという目的が昂じると、自分の細胞からクローン人間を作って臓器を取り出そうとする危険な動きがでてきそうです。
この場合、クローンでつくられたひとは実験動物あるいはものとして扱われる危険がでてきます。
そこで我が国を含め世界中でクローン技術規制法が敷かれ、人以外の動物に対するクローン技術の応用は容認されていますが、人への適用は厳しく禁止されているのです。