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医の倫理

臓器移植

葬儀
平成9年制定された臓器移植法では、臓器提供には本人の書面による意思表示と親族の同意が必要となっていましたが、平成22年7月の改正で、本人の意思がなくても家族の承諾があれば脳死での臓器提供が可能となり、移植件数は年平均7人から55人と急増しました。

しかし臓器移植を希望する患者さん(レシピエント)は提供者(ドナー)よりもはるかに多いため、希望者の声ばかり耳を傾けると、無理に臓器移植を進めようとする動きがおこりかねません。臓器移植は決して強制すべきものではないのです。

とくに脳死診断には慎重な判断が必要で、アメリカでは、臓器摘出の手術台に移す際にドナーが咳こんだケースや、脳死判定された聾唖者に婚約者が“I love you”と掌に書いたら“Ilove you,too”と答えたケースなど、驚くべき脳死診断のミスが明らかにされています。

死の定義

一方では、世界の臓器移植に対する考え方にも変化がみられます。

つまり、死の定義を脳死から一歩前に戻って、血流の停止をもって死と判定し臓器移植にとりかかっていいのでは、という意見が出てきているのです。

さらに英国医師会では「選択的人工呼吸」が議論されるようになっています。

つまり、本来なら人工呼吸器を取り付ける適応がないひとでも、臓器移植をするというのであれば、良好な臓器保存のために人工呼吸器をつけてよいのではという提案です。このように現在の日本社会には受け入れがたいと思われる議論がされているのも事実です。

また、世界の貧困な国々では、腎臓などの臓器売買がおこなわれているばかりか、臓器売買を目的とした人身売買事件も明るみに出ています。

たとえば2011年12月、 中国当局は国内10省で人身売買組織の一斉摘発を行い、608人を逮捕、子ども178人を保護したと発表しました。

中国では年間1万件を超す子供の誘拐事件がおこっており、なかには臓器売買を目的とした人身売買も含まれているのではという噂が絶えないのです。

世界的視野に立てば、臓器移植は人命尊重を謳いながら、一歩間違えば人命蔑視にもなる諸刃の剣だといえましょう。