やっと妊娠できたという喜びも束の間、高齢妊娠では染色体異常児が生まれる頻度が高いという話しに驚き、出生前診断を希望されるケースが急増しています。
たしかに最近では母体からの採血だけでダウン症など3つの染色体異常を診断できるようになってきていますが、妊娠22週を越えると中絶手術はできませんんから、出生前診断をしたことが、かえって重荷になるという事態もおこってきそうです。
また体外受精が頻繁に行われるようになったため、同じ出生前診断といっても、胎児ではなく、受精卵の時期に出生前診断を希望されるケースが増えてきました。
これを「着床前診断」と呼んでいます。
その多くは、検査で異常がなければその受精卵を子宮に戻し、異常があればその場で破棄するというもので、命の選別という大きな人権問題をかかえています。
そんな中、神戸市の不妊治療専門病院が、受精卵のすべての染色体を調べ、異常のない受精卵を選んで子宮に戻し、体外受精の妊娠率を上げていたことが明らかになり、波紋を呼びました。
同クリニックでは129組の夫婦に着床前診断を行った結果、染色体に異常がなかった受精卵を70人の子宮に戻して50人が妊娠(71・4%)し、流産は3人(6・0%)に留まったそうです。
これは一般的な体外受精による39歳の妊娠率(24・7%)、流産率(31・5%)を大きく上回る結果だったといいます。
同クリニックでは、妊婦に目を向けた発言が目立ちます。
すなわち、「着床しなかったり流産を繰り返す主な原因は、卵子の老化や受精卵の染色体異常にある。
だから着床前診断を行うことで、染色体異常がなく妊娠する可能性の極めて高い受精卵を子宮へ戻すことができ、妊婦の肉体的、精神的負担を減らせる」という主張なのです。
これに対し日本産婦人科学会は、受精卵という生命の尊厳に目を向けているのです。
このため同学会では、重い遺伝病以外の着床前診断は認めておらず、容認できないという立場をとっています。
命の選別とみるか、命を生み出すための治療とみるか、倫理的に極めて難しい問題といえましょう。