あらゆる植物が光合成をおこなって二酸化炭素を削減し、酸素と炭水化物を産み出しているのに、なぜ今更、人工的に光合成をしようとするのかという疑問があるでしょう。
ひとつには、地上の植物だけでは追いつかない二酸化炭素の削減を図り、地球温暖化防止の新たな手段としての意味があります。
もうひとつは、アルコールなどの代替燃料を産み出す可能性があるからです。
我が国のように資源の乏しい国にとって、人工光合成によって代替エネルギーが造りだされるとなれば、国家的利益は計り知れません。
代替エネルギー(水素)の生産
2001年、産業技術総合研究所の佐山和弘博士は、光合成の本質である、光を利用して水を酸化し、酸素とNADPHという物質を作り出す反応を応用し、可視光を使って水素を得ることに世界で初めて成功しました。
可視光でなかなか実現できなかったのは、紫外線よりエネルギーが低かったからです。
紫外線は太陽光の4%程度に過ぎず、50%を占める可視光が使えなくては効率的に水を分解することはできないのです。
人工光合成をするうえで最大の眼目は、水を酸化し分解する過程で発生する水素を人工的に作り出すことです。
2010年、彼は水の分解に不可欠な光触媒の性能を大幅に引き上げ、燃えやすい水素と酸素を分離発生させる装置(光触媒・電解ハイブリッドシステム)を実現しました。
このハイブリッドシステムで太陽エネルギー変換効率は0.3%にまで達しました。
一番シンプルな構造の有機酸であるギ酸はすでに 作成可能となっており、佐川氏によれば、「ギ酸にしろアルコールにしろ、水素と二酸化炭素から有機物を作る技術はそれほど難しくありません。
それよりも太陽エネルギーをどう変換するかの方が重要で、水素を作る技術が確立すれば、あとの工程は心配しなくても大丈夫」ということです。
太陽エネルギー利用、第三の選択肢
現在、太陽エネルギーの利用は太陽電池とバイオマスが主になっています。太陽エネルギー変換効率(太陽エネルギーからエネルギーを取り出せる割合)は、太陽電池の15~20%に対して、バイオマス(トウモロコシやサトウキビ)はわずか1%です。
しかし、単位面積当たりのコストを考えれば、太陽電池よりバイオマスの方が効率はいいのです。
つまり太陽電池で大きな電力を得るためには、途方もなく大きな面積が必要となることと、太陽電池では電気を貯蔵できませんが、バイオマスは収穫して貯めておけるのです。
佐山氏によれば、人工光合成ならば、この両者の短所をカバーできるといいます。
たとえば、水と光触媒を入れた大型のプールや海を利用すれば単位面積当たりのコストを安くできるし、発生した水素もタンクに貯蔵することができます。
あとは光触媒の改良を重ね、太陽エネルギー変換効率をいかに向上させるかです。
時を同じくして豊田中央研究所とパナソニックが相次いで、水と二酸化炭素から人工光合成に成功したと発表しました(2011年から2012年)。
ともに有機物としてギ酸を生成したということです。ただし太陽光エネルギー変換効率は0.04%、0.2%と、決して高くはありません。
今後、エネルギー変換効率の改良が最大のテーマになりますが、人工光合成の実用化は今や目前に迫っている感があります。