70年前のこと、スイスのジョルジュ・デ・メストラル氏が散歩中、犬のからだに付いた野生ゴボウのいがを外そうとしたとき、いがが犬の毛にからみ付いて容易にはずれないのに着目しました。
この仕組みを真似てマジックテープがつくられ、現在の巨大産業に発展していったのです。
このように自然が長い間かけて産み出した合理的な機能を真似て、生活に利用する技術をバイオミメティックス(生体模倣技術)と呼びます。
新幹線
かつて時速300kmの新幹線がトンネルに突入する際には、トンネル内の空気が圧縮され出口から一気に押し出されるため、爆発音が発生し騒音問題になっていました。
当時、新幹線の開発担当者はバードウォッチングに出掛けた際、カワセミが餌を捕らえるため水に飛び込んでも水しぶきが上がらないことに注目し、カワセミのくちばしの先端が少し丸まった円錐形をしていることが衝撃音を軽減することに気付きます。
この形状を真似て500系新幹線のデザインが誕生したのです。
粘着テープ
垂直の壁を自由に移動するヤモリの足の裏には細かな毛が密集し、さらにその毛の先端が数百本に分かれています。
この構造を参考にカーボンナノチュ-ブを使って、現在の粘着テープが開発されました。
台所用品
カタツムリの殻は汚れや油汚れに強く、いつも綺麗に保たれています。
それはカタツムリの殻に細かな溝があり、雨が降ると汚れがきれいに落ちるからです。この形をヒントに建物の外壁や台所のキッチン用品が開発されました。
注射針
蚊に刺されても気づかないことから、三本針からなる蚊の口吻をヒントに、針の先端がほぼ同じ形の極細注射針が研究開発されました。これによって糖尿病患者さんのインスリン注射がずいぶん楽になりました。
自然淘汰という進化と技術革新
さらには、蜘蛛の糸に着目し、蜘蛛の糸の組み換え遺伝子を注入した菌を培養してタンパクを合成させ、これを取り出して糸状にした結果、炭素繊維より軽く、鋼鉄製の糸の4倍の強度とナイロンより高い伸縮性をもった糸が出来上がりました。この細い繊維で飛行機や自動車のボディーを造ろうという計画が進行中です。
厳しい自然淘汰のなかで進化を遂げてきた自然界の生き物は、生存にもっとも適した形態や機能を獲得してきています。
今後さらに生き物を詳細に観察することで、より高い技術革新をめざすことができるとおもわれます。